高齢の家事従事者について、女性全年齢平均賃金が基礎収入とされた事例

東京高判平成28年11月17日自保ジャーナル1990号1頁

争点

 高齢の家事従事者である被害者の基礎収入が争点となりました。

判決文抜粋


(4) 休業損害 671万0350円

 前記認定のとおり,控訴人◯は,本件事故当時,控訴人△と同居し,パート勤務するとともに二人分の家事労働に従事していたから,賃金センサス平成21年女子学歴計全年齢平均賃金348万9000円をもって基礎収入とし,症状固定日である平成23年1月20日までの702日間について671万0350円の休業損害が生じたものと認められる。

(5) 逸失利益 2748万1530円
 前記認定のとおり,控訴人◯は,本件事故当時,二人分の家事労働に従事していたが,本件事故の脳外傷に起因する高次脳機能障害,身体性機能障害の後遺障害が残存し,その後遺障害等級は自賠法施行令別表第一の第2級1号に該当するものであり,労働能力喪失率は100パーセントであり,その基礎収入は,賃金センサス平成23年女子学歴計全年齢平均賃金である355万9000円と認められる。そして,控訴人◯は,症状固定時である平成23年1月20日の時点で70歳であり,本件事故がなければその平均余命19.31年の約2分の1に当たる10年間の就労が可能であった(ライプニッツ係数7.7217)と認められるから,2748万1530円の逸失利益が生じたものと認められる。


解説

 主婦休業損害については,全年齢平均賃金を参照するのが一般的ですが,高齢者については,年齢別平均賃金が採用される傾向にあり,身体状況や家族との生活状況を考慮して全年齢平均賃金の何割かに減額するケースも多く見られます。

 本件は,息子と同居して2人分の家事労働に従事していたことから,年齢別平均賃金や全年齢平均賃金の何割かの額ではなく,全年齢平均賃金がそのまま基礎収入として認定された事例です。

 判決文では,休業損害は事故当年の平成21年の平均賃金,逸失利益は症状固定年の平成23年の平均賃金と,別々の年の女性全年齢平均賃金を採用しています。

 このように,休業損害については事故時,逸失利益については症状固定時・死亡時の年の数値が用いられるのが一般的です。

 本件は,家族構成や家事労働の負担等を踏まえ,症状固定時である平成23年1月20日の時点で70歳であった高齢の家事従事者について,女性全年齢平均賃金が基礎収入として採用された事例の一つとして参考になると思われます。

関連項目

 

コラムの関連記事