大阪地判平成27年10月14日(平成26年(ワ)第1495号、平成26年(ワ)第7973号)
争点
交通事故で死亡した被害者の内縁の夫の固有慰謝料及び扶養利益が争点となりました。
判決文抜粋
(1) 扶養利益の喪失による損害 655万0533円
ア 甲A2,5,24,原告◯本人,原告△本人及び弁論の全趣旨によれば,亡□は,本件事故当時61歳で,原告◯のため家事労働に従事するとともに,和菓子屋でアルバイトをして,平成25年度に176万0908円の給与を得ていたこと,原告◯は,亡□と同居し,自らの年金(月額約15万円)と亡□の上記アルバイト収入等で生活していたことが認められる。
以上の事実関係の下では,亡□の内縁の夫であった原告◯が,亡□の死亡により,扶養利益の喪失という損害を被ったことは明らかであり,その額は,平成25年賃金センサス第1巻第1表・女性労働者・学歴計・60歳~64歳の平均賃金である298万8600円を基礎とし,亡Cの生活費控除率を30パーセント,就労可能年数を61歳女性の平均余命の約半分である13年間(ライプニッツ係数は9.3936)として算定した上で,その3分の1に当たる655万0533円をもって相当と認める。
イ これに対し,原告◯◯ら及び被告は,原告◯は十分な年金を受給しており十分な貯蓄もあったので,亡□の扶養を受けていたわけではなく,扶養利益の喪失は認められないと主張する。
しかし,前記1のとおり,原告◯と亡□は,両者の収入で生計を維持していたところ,原告◯は,平成14年9月にH株式会社を定年退職した後は月15万円程度の国民年金を得ていたのみで,原告◯が生活するのに十分な預貯金を有していたとも,その預貯金が平成16年以降特に増えたとも認められない。
そうすると,原告◯は,亡□の収入なしに生活できていたとは認め難く,亡□の扶養を受けていたと認められるから,原告◯◯ら及び被告の上記主張は採用できない。
(2) 原告◯固有の慰謝料 600万円
原告◯が亡□の内縁の夫であったことのほか,前記1で認定した本件事故までの生活状況等,本件における一切の事情を考慮すると,民法711条を類推適用し,原告◯固有の慰謝料として600万円を認めるのが相当である。
解説
交通事故によって被害者が死亡した場合,死亡によって被害者自身に生じた損害については,被害者の相続人が相続することになります。
そのため,相続人になりえない内縁配偶者にどのような請求が可能かが問題となります。
まず,内縁配偶者についても,近親者の固有の慰謝料について規定する民法711条を類推適用することにより,固有の慰謝料が認められています。
そして,内縁配偶者が被害者から扶養を受けていた場合には,被害者の死亡により扶養利益を喪失したとして,損害賠償を請求することができます。
内縁配偶者の固有の慰謝料が認められる場合も,認定される慰謝料の総額が増えるわけではなく,相続人と内縁配偶者との間の慰謝料の配分が問題となります。
そして,内縁配偶者の扶養利益についても,扶養費用は被害者の得べかりし利益から支出されるものですので,被害者の逸失利益の額から控除されます(最判平成5年4月6日民集47巻6号4505頁)。
このように,内縁配偶者と相続人は利害が対立する関係にあり,本件でも相続人が内縁配偶者の扶養利益を争っています。
内縁配偶者が慰謝料や扶養利益を主張する場合,相続人との間でどのように配分するかの基準が明確ではないことから全員の同意を得るのは難しく,示談による解決になじみにくいと考えられます。