意思疎通ができない被害者に代わる「成年後見人」とは?

交通事故による傷害で被害者と意思疎通ができなくなってしまうことがありますが、そういった場合の示談などは誰が行ってもいいのでしょうか。

さまざまな理由で意思表示ができなくなったり、判断能力を失ってしまったりすれば、本人が保険会社と示談したり、各種手続きを進めることができなくなります。
判断能力が不十分な人を保護し、支える方法として「成年後見制度」があります。

家庭裁判所に申し立てて選任された「成年後見人」は、本人に代わって示談をはじめとする様々な法律行為を行うことができます。

ここでは、「成年後見制度」について、わかりやすく解説します。

成年後見制度の概要

成年後見制度とは、「成人」で「判断能力が不十分」なため和解契約(示談)の締結などの法律行為がすることができない人を、「後見人等」が代理して必要な契約を行ったり財産を管理したりして本人の保護を図る制度です。

「判断能力が不十分」である状態とは、交通事故の場合では、事故による頭部への傷害で長期間意識が戻らない状態などが当てはまります。一般的には親族等からの申し出により、家庭裁判所が後見人等を選任します。

後見人等は、後見業務について、家庭裁判所又は後見監督人(財産が多い場合に選任されることがあります)の監督を受けます(定期的に財産管理状況を報告します)。後見人等について期間の定めはなく、本人の判断能力が回復して後見等が取り消されるか、本人が亡くなるまで継続します。

判断能力の度合いにより、以下の3つの制度に分かれています。

後見

本人の判断能力の程度 判断能力が全くない(支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない)
当然に後見人に与えられる権限 財産管理の代理権、取消権(注1)

保佐

本人の判断能力の程度 判断能力が著しく不十分(支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない)
当然に補助人に与えられる権限 ・借金、相続の承認、家の新築や増改築など特定の事項(注2)についての同意権、取消権(注1)
申し立てが認められれば保佐人に与えられる権限 ・特定の行為の代理権

補助

本人の判断能力の程度 判断能力が不十分(支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することが難しい場合がある)
当然に補助人に与えられる権限 なし
申し立てが認められれば補助人に与えられる権限 ・借金、相続の承認、家の新築や増改築など特定の事項(※注2)についての同意権、取消権 ・特定の行為の代理権(※注1)

※(注1)日用品の購入その他日常生活に関する行為を除く
※(注2)民法13条1項にあげられる以下の行為(交通事故関連を抜粋)

  • 訴訟行為をすること(例:裁判を起こすこと)
  • 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法〔平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう)をすること(例:交通事故の賠償に関する和解契約を締結(示談)すること)

法定後見と任意後見

成年後見には判断能力が不十分となってから後見等の申立てを行う「法定後見」と、判断能力が不十分になる前から後見人を決めておく(後見内容についても契約で決めておく)「任意後見」の2つがあります。

不慮の事故により突然判断能力が不十分となってしまう交通事故においては、事前に準備していない限り法定後見をせざるを得ない場合が大半です。

後見人等になれる人

法律で明文上定められているのは「後見人等になれない人」ですので、以下の人以外は後見人等になれることになります。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
  • 破産者(復権すれば可能です)
  • 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
  • 行方の知れない者

実際は申立て時に事前に了解を得て候補者も届け出ますが、候補者を家庭裁判所が選ぶかどうかはわかりません。

以前は親族等をあまり積極的に認めず弁護士や司法書士といった専門職を選ぶ傾向にありましたが、近年は事情をよく知っている家族を認めることも増えてきました。

後見人等を申し立てることができる人

民法の条文では、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官とされています。

成年後見申し立ての手続きと流れ

後見・補佐・補助開始の審判申立て

以下の書類により本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

  • 申立書
  • 申立事情説明書
  • 戸籍謄本と住民票
  • 診断書(家庭裁判所が定める様式)
  • 財産目録
  • 収支状況報告書
  • 財産及び収支に関する資料
  • 登記されていないことの証明書(すでに被後見人、被保佐人等でない証明)
  • 後見人候補者に関する資料、住民票

審理

書類審査のほか、申立人や本人、候補者と親族の意向が調査されます。必要と判断されれば本人の状態についての鑑定が実施されます(費用が2万~8万円かかります)。

審判

諸事情をもとに後見等を開始するか否か、誰を後見人等にするか家庭裁判所が決定します。財産の額によっては後見等監督人が選任されることがあります。

審判確定

審判書が届き、2週間の内に即時抗告がされなければ、審判が確定します。

登記

審判が確定すれば、後見等の開始が東京法務局で登記されます(東京法務局のコンピュータに全国のデータが収められています)。

まとめ

被害者自身の判断能力に問題があれば、後見人等を選任しなければ示談(和解契約の締結)は出来ません。成年後見人等の手続きが必要です。しかし、他にもしなければならないことを多く抱えた親族にとっては、手間と費用が重く感じられてもおかしくはないでしょう。

交通事故に注力している弁護士であれば、交通事故の損害賠償請求に先立って、成年後見の申立を頼むことも可能です。

手続きに不安があったり手間を感じたりする場合は、どうぞお気軽にご相談ください。

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