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無職の被害者の死亡事故において、稼働にかかる逸失利益が否定された事例

2019.10.13

東京地判平成8年1月31日交通事故民事裁判例集29巻1号190頁

争点

 無職の被害者について,稼働にかかる逸失利益が認められるかが争点となりました。

判決文抜粋


8 逸失利益 一六九一万一〇九六円
(一) 稼働に係る逸失利益 認めない
 稼働に係る逸失利益は、当該事故がなければ従前と同様に稼働することによつて得られるであろう収入があるにもかかわらず、当該事故によつて稼働することが一部又は全部困難となつたため、得べかりし前記収入を失つたことを理由に認められるものであるから、原則として、稼働していない無職者については稼働に係る逸失利益を認めることはできないというべきであり、ただし、その者が本件事故当時現実に就労していなかつたとしても、将来において具体的に就業の機会を得て稼働収入を得られたであろうにもかかわらず、当該事故によつてそれが実現しなかつたと認定することができる場合には、その稼働収入をもつて逸失利益を算定することは当然に許容されるべきである。
 ところで、本件では、甲三、一二、乙四、五の1ないし3、原告綾、同信一郎の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、◯は、昭和六一年一〇月二三日に住友建設株式会社を定年退職し、その後は就職して稼働することがなかつたこと、本件事故の前年である平成四年の◯の所得は少なくとも老齢厚生年金による収入三一七万一一六六円、不動産賃貸による収入一八六万九八〇七円、雑所得一六二万八三七四円、計六六六万九三七四円であつたこと、○の自宅の住宅ローンは既に支払済みであつたことが認められ、以上の事実を総合すると、◯が現実に仕事を見つけて収入を得なければならない切迫した経済的事情も認められず、また、たとえ、仮に、◯がシルバー銀行や職業安定所等の職業斡旋のための施設に行つていたり、日常生活で家事に係わる作業を担当したりしていたことが認められるとしても、具体的に就労の機会を得られる高度の蓋然性を認めるに足りる証拠がなく、また、◯が家事の一部を担つていたとしても、それは、人が生きるために必要な生活行為であるから、これを稼働収入の得られる労働として評価するのは相当ではない以上、同人に稼働収入に係る逸失利益を認めることは、かえつて、衡平な観点からの適正な損害の回復を妨げることになり相当ではない。


解説

 無職者の場合であっても,就労の蓋然性がある場合には,稼働にかかる逸失利益が認められています。

 本判決は,被害者(71歳・無職)に老齢基礎年金3,171,166円,不動産賃料収入1,899,807円,雑所得1,628,374円の合計6,669,374円の収入があり,自宅ローンも支払い済みであったことから,現実に仕事を見つけて収入を得なければならない切迫した経済的事情がないとした上で,仮にシルバー銀行や職業安定所等の職業斡旋のための施設に行つていたり,日常生活で家事に係わる作業を担当したりしていたことが認められるとしても,具体的に就労の機会を得られる高度の蓋然性を認めるに足りる証拠がなく,また,家事の一部を担つていたとしても人が生きるために必要な生活行為であるとして,稼働にかかる逸失利益を否定しました。

 被害者に働かなくても生活できるほどの十分な収入があったことが,裁判所が稼働にかかる逸失利益を認めなかった大きな要因であったと考えられます。

 なお,老齢厚生年金については,就労の蓋然性に左右されない事柄ですので,逸失利益が認められています。

 本判決は,無職者の稼働にかかる逸失利益について判断した事例の一つとして参考になると思われます。

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