東京地判平成10年1月28日 交通事故民事裁判例集31巻1号106頁
争点
事故による負傷後に出産した主婦の休業損害算定方法が争点となりました。
判決文抜粋
(一) 原告の主張
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3 休業損害 一七四万五四三八円
原告は主婦であるが、二〇六日間(平成四年九月二二日から平成五年四月一五日まで)働けず、賃金センサス平成四年第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者の全年令平均賃金額三〇九万三〇〇〇円を基礎として、一七四万五四三八円(一日八四七三円×二〇六日)に相当する休業損害を受けた。
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(二) 被告の認否
不知又は否認する。
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第三 争点に対する判断
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3 休業損害
原告の負傷及び通院治療の状況は、前記1で認定したとおりであるが、さらに証拠によれば、原告は本件事故当時専業主婦であったが、本件事故による負傷とそれによる通院、療養のため、本件事故のあった平成四年九月二二日から平成五年四月一五日までの二〇六日間、子どもの世話等の主婦労働が困難であったと認めることができる。ところで、証拠によれば、原告は、平成四年一一月二一日に出産していることが認められるが、その前後三〇日、合計六〇日は、本件事故により負傷しなくとも出産のため主婦労働が困難であったと窺えるから、本件事故と相当因果関係のある休業期間は、右六〇日を控除した一四六日と認めることができる。
そこで、賃金センサス平成四年第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者の全年令平均賃金額三〇九万三〇〇〇円を基礎とすると、原告の一日当たりの主婦労働の対価は八四七三円(円未満切捨て)に相当すると認められるから、原告はその一四六日分に相当する一二三万七〇五八円の休業損害を受けたと認められる。
解説
本判決は,事故で負傷した妊婦が出産した事案において,出産前後60日は子供の世話等の主婦労働が困難であったとして,当該期間を控除した146日を基礎として休業損害を算定しました。
事故により負傷しなくとも出産前後60日間については出産のため主婦労働が困難であったと認定し,当該期間の休業について事故と間の相当因果関係を否定しています。
妊娠や出産に関連して家事に従事することができない場合がありますが,仮に事故がなかったとしても家事に従事できないのであれば,当該休業と事故との間に因果関係は認められず,事故による休業損害とは別個の問題だといえます。
裁判例では,本判決のように出産前後の一定期間を休業損害の算定期間から控除した事例のほか,逓減計算に際して考慮したと見られる事例(東京地判平成15年12月8日交通事故民事裁判例集36巻6号1570頁)があります。