大阪・高槻市で交通事故に強い弁護士

弁護士との無料相談はこちら 0120-543-081
受付時間 平日 9:00-18:00

約5年前の事故で神経症状の後遺障害14級の認定を受けていた被害者について、既に治癒して今回の後遺障害に影響はないとして5%5年の逸失利益が認められた事例

2019.11.18

大阪地判平成21年3月24日交通事故民事裁判例集42巻2号418頁

争点

 約5年前に神経症状14級の後遺障害認定を受けたことがあり,既存傷害の要件を充足しないとして自賠責で非該当となった被害者について,再度の事故で同一部位について神経症状14級の後遺障害が認定されるかが争点となりました。

判決文抜粋


ア 原告の主張

 (オ) 後遺障害による逸失利益 合計一二一万八七四四円
  ① 原告の本件事故による後遺障害の程度は、「局部に神経症状を残すもの」として、少なくとも後遺障害等級一四級に該当する。確かに、原告は平成一三年七月二二日に遭遇した交通事故(以下「前回事故」という。)の結果、頸部及び腰部について後遺障害等級一四級(局部に神経症状を残すもの)と認定されているが、遅くとも三年後には前記傷害(症状)がほぼ消失するに至っていたものであるから、本件事故の治療後も残存する原告の頸部及び腰部の神経症状は、新たに生じた後遺障害として認定されて然るべきである。
  ② 労働能力喪失率は五パーセント、労働能力喪失期間は五年間(対応するライプニッツ係数は四・三二九四)、基礎収入額は年額五六三万〇〇八一円(本件事故前年度の実収入額)として、原告の後遺障害による逸失利益額を計算すると、
 563万0081円×0.05×4.3294≒121万8744円(円未満切捨て)

イ 被告の主張

(オ) 後遺障害による逸失利益及び後遺障害慰謝料について
  ① 各診断書の記載内容からは、治療が長期化したのも原告の希望による可能性があり得るところ、このような診療経過や快方傾向からすると、本件事故によって原告に後遺障害そのものが残っているのか甚だ疑問である。
  ② また、自賠法施行令二条二項では、同一部位の障害があった場合でも「加重」に該当しなければ新たな事故における後遺障害の認定はなされていないところ、本件においては後遺障害の「加重」があったと認定することはできない。
  ③ したがって、いずれにしても、本件事故による原告の後遺障害を認定することができない以上、後遺障害による逸失利益も後遺障害慰謝料も認めることはできない。

第三 当裁判所の判断

(5) 後遺障害による逸失利益 合計一二一万八七七一円
 ア まず、原告に本件事故による後遺障害が残っているかについて検討するに、①北野病院のA医師作成の証明書にも左握力の低下、ジャクソンテスト及びスパーリングテスト左+、左知覚鈍麻等の記載があること、②本件事故による双方の車両の損傷状況を見ても、衝突時の衝撃力は決して軽微とは言えず、本件事故によって上記後遺障害が残った可能性は否定できないこと、③自賠責保険の後遺障害等級認定票、異議申立てに対する審議結果票、自賠責保険紛争処理機構の調停結果書のいずれも、本件事故による原告の後遺障害が残っていることは否定せず、ただ自賠法施行令上の「加重障害」の要件を充足しないことを理由に「非該当」との結論を導いていること等の諸点を総合勘案すると、原告には神経症状に関する後遺障害が残っていると認定するのが相当である。ただし、いわゆる他覚的所見までは認められないから、後遺障害等級一二級には該当せず、後遺障害等級一四級に止まるものと言うべきである。
 イ 次に、原告は、前回事故の結果、頸部及び腰部について後遺障害等級一四級(局部に神経症状を残すもの)と認定されていることから、本件事故による後遺障害が一四級相当である以上、自賠法施行令二条二項による「加重障害」の要件を充足せず、自賠責保険の後遺障害等級認定においては「非該当」と判断されているものである。しかしながら、自賠法施行令上の「加重障害」の要件を充足しなければ逸失利益が認められないというわけではないこと、後遺障害等級一四級相当の神経症状を中心とする後遺障害の場合の労働能力喪失期間を五年以下に制限する事案が少なくないことからも窺われるように、原告の既存障害は治癒していた可能性は高いこと、原告本人の陳述書によれば、平成一六年六月ころには前回事故の後遺障害の症状がなくなっていたと窺われること等の諸点に照らし、本件事故当時は前回事故による既存障害が治癒していたと認定するのが相当であるから、原告の後遺障害については既存障害の影響がないと判断できる。そうすると、既存障害による減額ないし労働能力喪失率の低減をせず、原告は、本件事故により、後遺障害等級一四級に相応する五パーセントの労働能力喪失があったものと解するのが相当である。
 そして、労働能力喪失期間は、原告の後遺障害の内容が神経症状中心であること、前回事故における同様の後遺障害の回復状況等を総合勘案し、症状固定日から五年間(対応するライプニッツ係数四・三二九五)とするのが相当である。また、基礎収入額は本件事故前年の年収額五六三万〇〇八一円を採用して、原告の後遺障害による逸失利益の額を算定すると、
 563万0081円×0.05×4.3295≒121万8771円(円未満切捨て)
 となる。


解説

 自賠責施行令第2条2項は,「既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによつて同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表第一又は別表第二に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあつた後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とする。」と定めています。

 この規定から逆に,同一部位に生じた後遺障害が既存障害の等級よりも上位の等級に該当しない場合には,「同一部位の障害として障害等級表上の障害程度を加重したものとは捉えられない」として非該当とされる運用がとられています。
 損害保険料率算出機構は,約5年前の事故で頸部及び腰部に神経症状で14級の後遺障害が認定されていたことを理由に,自賠法施行令上の「加重障害」の要件を充足しないことして「非該当」と判断しました。

 これに対し,本判決は,以下の理由から神経症状で14級の後遺障害を認定しました。

  1. 北野病院のA医師作成の証明書にも左握力の低下、ジャクソンテスト及びスパーリングテスト左+、左知覚鈍麻等の記載があること
  2. 本件事故による双方の車両の損傷状況を見ても、衝突時の衝撃力は決して軽微とは言えず、本件事故によって上記後遺障害が残った可能性は否定できないこと
  3. 自賠責保険の後遺障害等級認定票、異議申立てに対する審議結果票、自賠責保険紛争処理機構の調停結果書のいずれも、本件事故による原告の後遺障害が残っていることは否定せず、ただ自賠法施行令上の「加重障害」の要件を充足しないことを理由に「非該当」との結論を導いていること

 裁判所が自賠責の判断を重視する傾向にあることから考えますと,自賠責の手続きで後遺障害が残っていることは否定されておらず,もっぱら加重傷害の要件を充足しないとことを理由に非該当とされていた点が,本件で後遺障害が認められた大きなポイントであったように思います。本判決は「自賠法施行令上の「加重障害」の要件を充足しなければ逸失利益が認められないというわけではない」ことを判決文中で明らかにしています。

 そして,「後遺障害等級一四級相当の神経症状を中心とする後遺障害の場合の労働能力喪失期間を五年以下に制限する事案が少なくない」と指摘した上で,既に治癒して今回の後遺障害に影響はないとして5%5年の逸失利益を認定しました。

 自賠責保険では画一的処理が行われているため,後遺障害逸失利益の算定において後遺障害残存期間が制限される傾向にある神経症状であっても,同一箇所について14級の後遺障害認定はおよそ期待できません。

 しかし,過去の事故から5年程度経過し,過去の事故の影響が影響が残っていないような状態であれば,本判決のように神経症状14級の後遺障害が認められる場合があります。

 本判決は,加重障害に関する自賠責の運用と裁判所の判断が異なる事例の一つとして,参考になると思われます。

コラムの関連記事