定年までは実収入を基礎収入とし、定年後から67歳までは実収入の80%を基礎収入として逸失利益が認められた事例

大阪地判平成21年5月14日交通事故民事裁判例集42巻3号618頁

争点

 逸失利益の算定に際し,定年年齢60歳以降の基礎収入が争点となりました。

判決文抜粋


エ 死亡逸失利益について
(ア)60才までの逸失利益          3126万2306円
 甲第16及び第18号証によれば,◯は,死亡当時51才であり,甲第25号証によれば,◯は,△信用組合から,事故の前年である平成17年には,676万6440円の給与の支払を受けており,甲第29号証によれば,△信用組合の定年は,60才である事実が認められる。また,◯の生活費控除率は,35パーセントとするのが相当である。
 よって,◯の60才までの逸失利益としては,3126万2306円が相当である。
(計算式)
676万6440円×(1-0.35)×7.108(51才から60才までの9年間のライプニッツ係数)=3126万2306円

(イ)定年後67才までの逸失利益       1312万4187円
 甲第25号証によれば,◯は,△信用組合から,事故の前年である平成17年には,676万6440円の給与の支払を受けていた事実が認められ,甲第2ないし第9号証によれば,◯は,生前各種の資格を取得していた事実が認められ,△信用組合の定年が60才であることは上記ア認定のとおりである。
 上記認定の事実によれば,◯が,各種資格を取得し,その仕事上の技術に精通していたと解されるものの,定年後にも定年前途同程度の賃金の支払を受けうる蓋然性は認められないことからすれば,67才までの逸失利益を算出するに当たっては,◯が支払を受けていた給与676万6440円の8割の金額及び生活費控除率35パーセントを前提にすることが相当であるというべきである。
 よって,◯の定年後67才までの逸失利益は,1312万4187円が相当である。
(計算式)
676万6440円×0.8×(1-0.35)×(10.838(51才から67才までの16年間のライプニッツ係数)-7.108(51才から60才までの9年間のライプニッツ係数))=1312万4187円


解説

 本件は,信用組合に勤務していた51歳女性の死亡事故の事案です。

 定年制度がある場合には,定年後の基礎収入をどうするかが問題となります。

 実収入が比較的高い場合,定年後は賃金センサスを参照して金額を認定するものや,定年前の収入を一定程度減額して認定するものが裁判例で多く見られます。

 本件では,定年年齢の60歳から就労可能年齢の67歳の間について,「定年後にも定年前途同程度の賃金の支払を受けうる蓋然性は認められない」として,定年前の収入の8割の基礎収入が認定されました。

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