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嗅覚障害で後遺障害慰謝料の増額が認められた事例

2020.02.18

東京地判平成11年5月25日交通事故民事裁判例集32巻3号804頁

争点

 嗅覚障害(12級相当)及び顔面醜状(14級11号)で併合12級の後遺障害が認定された大学生(男・事故当時31歳)について,逸失利益及び後遺障害慰謝料が争点となりました。

判決文抜粋


 一 後遺障害による逸失利益の有無
 本件において原告は嗅覚全脱失という後遺障害により逸失利益が生じたと主張する。確かに、証人○の証人尋問によれば嗅覚が人間生活に通常考えられているよりも一層重要な役割を果たしていることは認めることができる。しかし、これを肯定したとしても嗅覚の職業生活上の役割は視覚・聴覚とはおのずと異なり、嗅覚の脱失それ自体が逸失利益すなわち労働能力の喪失に一般的に結びつくものであることまで認めることはできない。嗅覚の脱失による労働能力の喪失を認めるためには被害者の職業との関連性が必要とされるものと考える。そして、原告は哲学の教師を志望していてこれに関連する職業に就く可能性が極めて高いと認められるが、証人△の証言によっても哲学の教師としての活動に嗅覚の脱失が具体的な影響を及ぼすものと認定することはできない。したがって、本件においては原告が嗅覚の脱失によって労働能力の喪失したものと認めることはできない。
 なお、原告には顔面醜状の後遺障害もあるがこれも労働能力の喪失をきたすものとは認められない。以上によれば、原告の後遺障害逸失利益については算定の基礎についての争いもあるが、この点について判断するまでもなく原告の後遺障害による逸失利益の請求は認められない。

 四 後遺障害慰謝料 金六〇〇万円
 原告は後遺障害等級一二級の認定を受けているに過ぎないが、嗅覚を全脱失することにより受ける生活上の種々の不利益・影響、本件において逸失利益が認められないこと等を考慮して、右金額を相当と認める。


解説

 過去の裁判例では労働能力喪失を否定するものと肯定するものに分かれていますが,性別,年齢,減収の程度および嗅覚障害の職業に対する具体的影響などの事情を考慮し,特に職業への影響を重視して判断される傾向にあります(片岡武裁判官の講演録「労働能力喪失率の認定について(交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ349頁)」)。

 調理師,寿司職人,溶剤を使用する職人等については,嗅覚は材料の見極め等に重要な働きをするため,自賠責の労働能力喪失率にとらわれることなく,障害の支障の実態に合わせた高い数値の喪失率を認めることができると指摘されています(同講演録349頁)。

 次に,主婦の場合でも,料理等の家事労働に重大な支障を生じるから,嗅覚脱失は少なくとも12級の労働能力喪失率14%を認めるのが相当であると指摘されています(同講演録349頁)

 一方,嗅覚の職業に対する影響がない場合には,労働能力の喪失は認められないことになります。

 本判決は,哲学の教師としての活動に嗅覚の脱失が具体的な影響を及ぼすものと認定することはできない(顔面醜状も同様)として,逸失利益を否定しました。

 外貌醜状に関しては,逸失利益が認められない場合における後遺障害慰謝料増額についての議論があります。

 河邉義典裁判官は,外貌醜状の労働能力喪失と後遺障害慰謝料の増額について以下のような基準を示しています(東京三弁護士会交通事故処理委員会「新しい交通賠償論の胎動-創立40周年記念公演を中心として」ぎょうせい2002 9頁など)。

  1. 醜状痕の存在のために配置転換を受けたり,職業選択の幅が狭められたりするなど労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがある場合には一定割合の労働能力喪失を肯定して逸失利益を認める。
  2. 労働能力への直接的な影響は認めがたいが,対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で,間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれがある場合には,概ね100万~200万程度の額で慰謝料増額事由として考慮する。
  3. 直接的にも間接的にも労働能力に影響を与えないと考えられる場合には,慰謝料も基準どおりとして増額しない。

 一方,嗅覚や味覚の後遺障害慰謝料増額の基準について触れた主だった文献は見当たりません。

 本判決は,「嗅覚を全脱失することにより受ける生活上の種々の不利益・影響、本件において逸失利益が認められないこと等を考慮し」,東京地裁における12級の目安である290万円を遥かに上回る600万円の後遺障害慰謝料を認定しました。

 嗅覚障害で逸失利益が認められない事案において,後遺障害慰謝料増額を認めた裁判例として参考になると思われます。

 また,本判決が後遺障害慰謝料増額を認めた理由付けは,味覚障害のケースについても同様に当てはまるものと考えられます。

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