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心因的素因による減額が行われた事例

2019.06.22

大阪地判平成25年11月21日交通事故民事裁判例集46巻6号1479頁

争点

 うつ病及びパニック障害の既往症のある被害者について,心因的素因による減額が行われるかどうかが争点となりおました。

判決文抜粋


(2) 素因減額
 前記(1)の認定した事実のとおり,原告◯には本件事故直近までうつ病及びパニック障害の治療をしていたこと,本件事故は軽微であることに加えて,長浜赤十字病院の医師は,本件事故に基づく症状やその治療期間に,うつ病及びパニック障害が影響を与えている可能性がある旨の回答をしていること,同医師は,平成23年2月18日に,カルテに「症状はあるとのことだが,精神的なものもある様子」と記載したことからすれば,原告◯が本件傷害を負ったことないしその治療経過は,本件事故にのみ原因があるのではなく,うつ病及びパニック障害など心因的素因が影響を及ぼしたと認められる。
 もっとも,前記(1)の認定した事実のとおり原告◯は本件事故前にはうつ病等について服用をしなくてもよい程度に回復していたこと,上記医師の意見をみても,原告◯の心因的素因が症状に対して明らかな影響を及ぼしていると断言したものではないこと,原告◯は積極的に社会復帰を果たそうとした結果,後遺症も残存しなかったなど症状が著しく遷延したとまではいえないこと,後記のとおり損害額全体が加害行為に比較して損害の均衡を著しく失するほど大きいとはいえないことからすれば,心因的素因による減額は,損害の公平な分担の見地から,全体の損害額の1割とするのが相当である。
 また,前記(1)の認定した事実のとおり,原告◯は,本件事故前に腰部痛を感じることがあったと認められるものの,他方で,病院に通うなどの何らかの治療を受けていたと認めるに足りる証拠はないから,腰部痛は素因減額の対象としないのが相当である。
(3) 費目ごとの損害

(イ) 入院治療費
 a 証拠によれば,原告◯は,入院費75万5430円を要したことが認められる。
 b 被告は,前記のとおり入院と本件事故は因果関係がない旨主張し,①前記(1)の認定事実のとおり,原告◯の傷病は頸椎捻挫及び背部打撲等であることが認められるほか,②乙第2号証(長浜赤十字病院医師の回答書)中には,「入院の医学的必要性は認められましたでしょうか」との問いに対して「いいえ」に丸がつけられており,③甲第2号証の1(診断書)中には,「社会的入院となった。」と記載がある。
 c しかし,原告◯はうつ病及びパニック障害の既往があり(前記認定した事実(1)),本件事故という突発的事態によって同症状が悪化ないし再発する可能性は十分にあったと認められること,頸部から腰部にかけての痛みに加えて,吐き気等の症状があっから,2階部分である自宅で1人で生活することに不安を覚えても不自然ではないこと,実際に入院期間中精神不安定となりリストカットに及んだことなどの事情に鑑みれば,本件事故と入院との間に相当因果関係はあると認められ,前記①ないし③の証拠もこれをもって,同認定を覆すに足りない。また,原告◯の上記精神状態に照らせば,個室の必要性もあると認められる。
 d もっとも,入院にまで至ったことは,原告◯の前記c記載の心因的素因及び生活環境が多分に影響したと認められるから,前記(2)の全体の損害にかかる素因減額とは別途,入院治療費について,9割を減額するのが相当である。

(ウ) 接骨院の施術費
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告◯は,本件傷害について施術を受けるために接骨院に通院し,施術費118万1480円(原告保険会社との協定後の額)を要したことが認められる。
 しかし,前記認定した事実(1)のとおり,原告◯は,約8か月間,七里接骨院に頻繁に通院しているが,原告◯の症状に照らすと,全通院日について必要性があったとは認めがたい。
 また,原告◯は,本件事故翌日である入院時,長浜赤十字病院において,腰の痛みも訴えており,七里接骨院においては当初から腰部も含めて施術がされているものの,長浜赤十字病院の診断書及びカルテには,腰部について診断及び治療した経過が窺われず,他に,本件事故によって腰部にも治療を要する捻挫が生じたと認めるに足りる証拠がないから,腰部の施術が本件事故と因果関係があると認めるに足りない。
 以上の事情を総合考慮すると,上記施術費の7割をもって,相当性を認める。

イ 通院交通費 6688円
(ア) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,長浜赤十字病院の通院交通費(ガソリン代)として片道210円(14km×15円),七里接骨院の通院交通費(ガソリン代)として片道7.5円(0.5km×15円)を要したことが認められる。そして,治療期間については,前記ア(ア)のとおり,平成23年8月22日までの全期間が相当因果関係の範囲内であるから,長浜赤十字病院については,11日分について往復,9月29日及び10月8日の2日分について片道分が認められる。他方,七里接骨院については前記ア(ウ)のとおり,全通院日について必要性があったとは認めがたいこと及び腰部の施術がなかったとすれば,その通院頻度もさらに減るであろうこと等の事情を総合考慮し,その7割をもって相当性を認める。

ウ 入院雑費 1500円
 前記ア(イ)のとおり,本件事故と入院との間に相当因果関係は認められるが,全体の損害に対する減額とは別途9割の素因による減額をするのが相当であるから,入院期間の10日間,1日あたり1500円の9割を控除した1500円に限って損害として認められる。


解説

 判例(最一小判昭和63年4月21日民集42巻4号243頁)は,「身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害がその加害行為のみによつて通常発生する程度、範囲を超えるものであつて、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる」と判示し,心因的要因の寄与を理由とする減額を認めています。

 本判決では,うつ病及びパニック障害の既往症がある被害者が,軽微な追突事故によって頚椎捻挫及び背部打撲で約11ヶ月間もの間治療を受けた事案について,既往症や事故前からの腰痛を理由として以下の素因減額等が行われました。

  1. 入院にまで至ったことは,心因的素因及び生活環境が多分に影響したと認められるとして,入院治療費の9割を減額。
  2. 接骨院に頻繁に通院しているが,原告の症状に照らすと,全通院日について必要性があったとは認めがたく,病院の診断書及びカルテには,腰部について診断及び治療した経過が窺われず,他に,本件事故によって腰部にも治療を要する捻挫が生じたと認めるに足りる証拠がないから,腰部の施術が本件事故と因果関係があると認めるに足りないとして,施術費の3割を減額。
  3. 接骨院については全通院日について必要性があったとは認めがたいこと及び腰部の施術がなかったとすればその通院頻度もさらに減るであろうこと等の事情を総合考慮し,交通費(但し,タクシー代は否認)の3割を減額。
  4. 入院雑費の9割を減額。
  5. 以上とは別に,損害全体から1割を減額。

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