民事訴訟においては制度趣旨・目的や立証構造の違い等から労災認定に左右されないとの判断が示された事例

東京高判平成28年10月19日自保ジャーナル 1985号1頁

争点

 労災で後遺障害等級が認定され,自賠責で非該当となった事案について,後遺障害等級が認定されるかが争点となりました。

判決文抜粋


3 当審における控訴人の補充主張は,以下のとおりである。

(3) 控訴人は,本件事故後,通勤災害との認定を受けて障害等級第12級13号と決定され,障害共済年金及び障害基礎年金の受給に係る障害程度について2級17号で永久固定と認定されるなどしていて,控訴人が本件事故による外傷によって身体上の障害を負い,経済的にも精神的にも多大な損害を被ったことは明白である。控訴人の請求を棄却した原審の判断は,明確な診断基準がないなど,立証に一定程度の困難を伴わざるを得ない本件のような事案において,被害者に一方的に損害を負担させるような極めて不公平な結果を強いるものであり,被害者保護の観点から著しく不当である。

4 当審における被控訴人の補充主張は,以下のとおりである。

(3) 損害保険料率算出機構が,自賠責保険の非該当認定に対する控訴人の異議申立てについて非該当と判断した際,自賠責保険と労災保険とはその制度の趣旨や認定主体が異なり,等級認定のための資料や判断等に差がある場合もあることなどから,その等級評価が必ずしも一致するものではないと述べていたとおり,裁判所の判断が労災認定と異なることは何ら不合理なものではない。交通事故の加害者は相当因果関係のある損害について責任を負うのであり,本件について相当因果関係を否定することが損害の公平な分担に反するものではない。

第3 当裁判所の判断

(3) 控訴人は,本訴請求を棄却した原審の判断について,本件事故後,控訴人が通勤災害との認定を受けて障害等級第12級13号と決定され,障害共済年金及び障害基礎年金の受給に係る障害程度について2級17号で永久固定と認定されたことなどを指摘して,本件事故により多大の損害を被った控訴人に対して一方的に損害を負担させるような不公平な結果を強いるものであるなどと批判する。しかし,控訴人指摘の等級認定等は,本件の民事訴訟において,本件事故と控訴人主張の障害との因果関係の有無に関する判断に影響を与えるものでないことは制度の趣旨,目的や立証構造の違い等から明らかであり,控訴人の上記主張は,独自の見解といわざるを得ず,採用することができない。


解説

 労災で後遺障害等級が認定されても,自賠責では労災よりも低い等級が認定されたり,非該当となるなど異なる判断になることがあります。

 本件は,労災で後遺障害12級13号が認定され,障害共済年金及び障害基礎年金の受給に係る障害で2級17号が認定された一方,自賠責で非該当となり,原審でも請求が棄却された事案です。

 本判決は,制度の趣旨・目的や立証構造の違いから,労災での等級認定が民事訴訟における障害と因果関係の有無に関する判断に影響を与えるものでないことは明らかであるとして,原告の請求を棄却した第1審判決を支持し,控訴を棄却しました。

 労災と自賠責の認定が異なる場合に,裁判所の判断が労災認定に左右されないことを明示した高裁判決として参考になると思われます。

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