京都地判平成30年5月28日交通事故民事裁判例集51巻3号595頁
争点
自動二輪車のG防犯登録費用や,自動車重量税の未経過分が買替諸費用として認められるかが争点となりました。
判決文抜粋
3 当事者の主張
(原告○)
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(ウ)(買替諸費用)について
まず,①納車整備費用については,購入先業者が通常徴収する費用であって,買替に伴い通常発生する費用であるから,本件事故と相当因果関係があるというべきである。②G防犯登録について,車両に防犯登録をすることは通常であり,本件事故と相当因果関係がある。⑤廃車費用について,原告○車両が全損状態にあり,本件事故と相当因果関係がある。
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(被告)
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(ウ) 買替諸費用は,本件事故との相当因果関係を争う。
特に,①納車整備費用について,時価額は走行可能な中古車両の時価額であり,重ねて整備は必要ないから,本件事故と相当因果関係がない。また,中古車売買は特定物売買で取立債務であるから,中古車購入費用として法が予定しているものではない。②G防犯登録について,中古車購入に必要なものではないから,本件事故と相当因果関係がない。③自賠責保険料について,保険期間の途中で廃車にすれば,未経過分の保険料が返還されるから,原告○に自賠責保険料相当額の損害は発生しない。④重量税について,原告○車両について,車検残存期間に相当する重量税額が還付されるから,原告○に重量税相当額の損害は発生しない。⑤廃車費用について,本件事故がなくてもいずれ必要になるものであるから,本件事故と相当因果関係がない。
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第3 当裁判所の判断
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(ウ) 買替諸費用
買替諸費用はお見積書のとおりであるところ,③自賠責保険料,④重量税は還付制度があるから控除して,その余の分9万5710円(11万3520円-1万4010円-3800円)を認める。
被告は,①納車整備費用,②G防犯登録,⑤廃車費用について争うが,いずれも内容に照らして買替えのために必要であったと認められ,金額に照らすと相当性も認められる。
解説
1 G防犯登録費用について
保険会社との交渉において,買替諸費用としてどの範囲までの損害が認められるかが争いになることがあります。
買い替え車両のうち,自動車取得税(現在の制度では自動車税環境性能割),自動車検査登録・車庫証明にかかる法定費用などは,多くの裁判例で認められていることから,保険会社との交渉においても,特に争いにはなることはありません。
一方,裁判例が見当たらない場合,保険会社は簡単に諸費用を損害として認めようとはしません。
G防犯登録とは,グッドライダー防犯登録の略称です。
同制度を運用している,一般社団法人 日本二輪者普及安全協会の解説によりますと,グッドライダー防犯登録とは,「二輪車の盗難防止と万が一の盗難時の早期発見を実現するためのシステム」で,「車両に貼付された登録ステッカーによる盗難抑止効果と、二輪車のデータが警察のオンライン網に登録され、 不審車両が発見された場合は、各都道府県警察において、グッドライダー・防犯登録番号の他、車両標識番号(ナンバープレート)、車台番号から、24時間いつでも瞬時に所有者確認が行えるため、盗難の早期発見を可能」にするというものです。
わずか1,100円の費用なのですが,加入が任意であるため,保険会社が事故と相当因果関係のある損害とは認めないことがあります。
本判決は,G防犯登録費用を損害と認定した先例として,参考になると考えられます。
2 自動車重量税の未経過分について
平成17年(2005年)1月から使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)が施行され,使用済自動車に係る自動車重量税の廃車還付制度が導入されました。
同法施行以前,裁判例では還付制度がないことを理由に自動車重量税の未経過分が損害として認められてきました(東京地判平成15年8月4日交通事故民事裁判例集36巻4号1028頁など)。
これに対し,本判決は「重量税は還付制度があるから控除して」と述べ,自動車重量税の未経過分の損害を否定しました。
本判決は,還付制度があることを理由に自動車税や自賠責保険料を否定してきた裁判例と同じ判断枠組みを採用したものと考えられます。
一方,民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称「赤い本」)では,「事故車両の自動車重量税の未経過分(「使用済み自動車の再資源化等に関する法律」により適正に解体され,永久抹消登録されて還付された分を除く)」が登録手続関係費として例示されています。
そして,同書の記載の通り,使用済自動車の再資源化等に関する法律により適正に解体され,永久抹消登録されて還付された分を控除して損害を認定した裁判例(大阪地判平成24年11月27日自保ジャーナル1889号64頁)もあります。
以上の通り,自動車重量税の未経過分の扱いについては,裁判例で判断が分かれています。