大阪高判平成21年9月11日自保ジャーナル1813号4頁
本件の争点
高次脳機能障害(9級10号)の後遺障害の等級認定を受け,復職し,収入の減少がない地方公務員について,逸失利益が認められるかどうかが争点となりました。
判決文抜粋
(2) 控訴人らは,◯◯には逸失利益は発生していないと主張する。
しかしながら,◯◯には,脳挫傷に伴うびまん性軸索損傷があり,物忘れ,集中力の低下,退行等の高次脳機能傷害の症状が存在しているのであって,仮に,現段階においては明らかな減収等が生じていないとしても,その労働能力の低下に伴う減収や失業の可能性は常に潜在的に存在するのであるから,◯◯に逸失利益が発生していないとはいえない。そして,◯◯の上記症状の内容及び程度,同人が若年であり地方公務員として稼働していたこと等を考慮すると,基礎収入を賃金センサスの産業計・企業規模計・女性労働者・学歴計の全年齢平均賃金とし,労働能力喪失率を30%として逸失利益を算定するのが相当である。控訴人らの主張は採用することができない。
解説
判例(最三小判昭和56年12月22日民集35巻9号1350頁)が減収がない場合に特段の事情があれば逸失利益が認められる旨判示し,その後の裁判例は以下のような考慮要素を下に特段の事情を認めて逸失利益を認定してきました。
①事故前に比べ、本人が努力し収入を維持しているのか。
②昇進・昇給等における不利益が生じているか。
③業務へ支障を来しているか。
④退職・転職を余儀なくされる可能性があるか。
⑤勤務先の規模・存続可能性。
⑥勤務先の配慮や温情により、収入が維持されているに過ぎないのか。
⑦生活上の支障が生じているか。
本件は,原審で逸失利益が認められ,控訴審でも争われた事例です。控訴審の大阪高裁は,物忘れ,集中力の低下,退行等の高次脳機能傷害の症状による労働能力の低下にともなう減収や退職の可能性(④)を考慮要素として挙げ,44年間30%の逸失利益を算定するのが相当だとして,控訴人の主張を退けました。
減収がないが,逸失利益が認められた高等裁判所の裁判例の一つとして参考になると思われます。