大阪・高槻市で交通事故に強い弁護士

弁護士との無料相談はこちら 0120-543-081
受付時間 平日 9:00-18:00

中学生の死亡事故において、大学卒労働者平均賃金を基準に算定することが相当ではないと判断された事例

2019.09.06

大阪高判平成19年4月26日自保ジャーナル1715号2頁

争点

 女子中学3年生の死亡事故における基礎収入の算定に関し,大卒労働者の平均賃金を基準にすることができるかが争点となりました。

判決文抜粋


(イ) 基礎収入
 a 就労可能年齢にいまだ達しない年少者の場合,現に就労可能年齢に達している者とは異なり,多様な就労可能性を有しているのであり,また,法制度や社会環境,更には社会の意識等,女子の就労環境をめぐる近時の動向等も勘案すると,年少者の将来の就労可能性の幅に男女差はもはや存在しないに等しい状況にあると考えられる。すなわち,女子においても,従来の社会通念に捕らわれず,その意思によりさほどの困難なく男子と同じ職種や就労形態を選択し,その有する労働能力を就労の場において発揮することも可能な状況にあり,現にそのような就労形態を選択する女子が増加しているのであって,今後ともこの趨勢に変わりはないものと考えられる。
 もっとも,そうであるからといって,近い将来において,女子の方が男子に比べて低い収入の就労条件の下で就労する割合が多いという現状に大きな変化が生じ,平均賃金の男女間格差が解消するという見込みがあるとは言い難いことは1審被告らが指摘するとおりであるが,このことと,年少者の1人1人について就労可能性が男女を問わず等しく与えられているということとは別個の問題であって,現に職に就いている者の賃金の平均値に男女差があることが年少者の将来得べかりし収入の認定や蓋然性の判断に必然的に結び付くものではない。
 これらの事情を勘案すると,少なくとも義務教育を修了するまでの女子年少者については,逸失利益算定の基礎収入として男女を併せた全労働者の平均賃金を用いるのが合理的というべきである。
 1審被告らは,男女間に賃金格差がある現実を無視して現実には存在し得ない数値(男女平均)を逸失利益算定の基礎とするものであると主張するが,上記のとおり,死亡による逸失利益の算定は,現実に発生する損害の科学的な算定ではなく,妥当な賠償額を算出するための擬制にすぎないことからすると,男女間の平等の実現へ向けた社会的なすう勢を考慮した上で,統計の利用という手法の範囲内での操作にすぎないから,これが逸失利益の算定という手法そのものを根底から覆すものであるとすることはできない。
 また,確かに,本件事故時は,◯が中学3年生になってしばらくのころであり,本件事故がなければ,◯がどのような人生を送るかにつき具体的に推認することは不可能であるとしても,◯について全労働者平均賃金を基礎としてその逸失利益を算定することが具体的な妥当性を欠くとするまでの理由もない。
 b そうすると,本件事故による◯の逸失利益は,◯の死亡時である平成14年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の全労働者全年齢平均賃金である494万6300円を基礎年収として算定すべきである。
 c 1審原告らは,2人の姉がいずれも国公立大学に進学していること,◯の成績が優秀であったこと,◯が××高校又は○○高校への進学を希望していたことなどを理由に,◯の逸失利益の算定に当たっては大学卒労働者平均賃金を基準とすべきと主張している。
 確かに,1審原告らの陳述等から,◯について,このような夢がかなりの実現可能性をもっていたものと考えることもできるが,死亡者の逸失利益の算定にあたって,いまだ中学生の段階の死亡者について,大学卒業が確実であるとして大学卒労働者平均賃金を基準にこれを算定することは,実際には,不確実な進路の設定について,あまりに擬制を用いることとなり,相当ではない。
 したがって,◯に上記全労働者全年齢平均賃金を超える収入を得る蓋然性があったとまでは認められない。そのほか,◯に上記全労働者全年齢平均賃金を超え648万6477円の年収を得る蓋然性があったと認めるに足りる事情はない。


解説

 未就労の年少者については,賃金センサスを基準として基礎収入が算定されるのが通常です。

 そして,年少者については,事故がなければ将来大学を卒業していたとの主張がなされ,しばしば大学卒労働者平均賃金を基礎収入として算定すべきかが争点となっています。

 大学卒業の蓋然性が認められるかどうかが問題になるところですが,高校生や浪人生で大学卒労働者平均賃金を基礎収入として認定した裁判例が散見されるのに対し,中学生以下で認められた事例はあまり見られません。

 本判決は,2人の姉がいずれも国公立大学に進学し,被害者の成績が優秀で,進学校への進学を希望していたことから大学卒業についてかなりの実現可能性をもっていたものと考えることもできるとしつつも,「死亡者の逸失利益の算定にあたって,いまだ中学生の段階の死亡者について,大学卒業が確実であるとして大学卒労働者平均賃金を基準にこれを算定することは,実際には,不確実な進路の設定について,あまりに擬制を用いることとなり,相当ではない」として,控訴人(第1審原告)の主張を認めませんでした。

 本判決の判決理由を見ますと,中学生以下の者について,大学卒業の蓋然性が認められるハードルが高いことが伺われます。

コラムの関連記事