大阪地判平成29年11月28日交通事故民事裁判例集50巻6号1442頁
争点
物損で5:5の過失割合で示談済みの事件において,人損で被告に過失が認められるかが争点になりました。
判決文抜粋
(原告の主張)
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ウ(ア) 以上によれば,被告の過失割合は,少なくとも50%を下回るものではない。
なお,物損については,被告は,自己に50%の過失割合があることを認めて示談で解決している。
(イ) 被告が主張する物損の示談に関する事情については,不知ないし否認する。被告は,◯の付保していた□保険担当者に対して代車は不要と伝えていたし,物損示談が成立したのは本件事故から6か月以上が経過した平成25年8月20日であるから,仕事を続けるためにできる限り早期に車が必要であったという被告の主張は事実ではない。また,◯の上司が被告に面談したことは,過失相殺の主張をするに際しての圧力になるようなものではない。
◯側が被告の対人賠償を利用せず◯側の人身傷害保険を利用したのは,□保険担当者に勧められたからにすぎず,このことが自らに大きな非を認めていたことになるわけではないことは明らかである。
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(被告の主張)
ア 否認し,争う。本件事故惹起の責任は,全面的に◯にある。
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エ 被告が物損に関して5対5で示談に応じたのは,◯の強硬な交渉姿勢や,本件事故直後から◯の上司という者が被告のところを訪れて実質的な圧力をかけられていたこと,仕事を続けるためにできる限り早期に車が必要な被告の事情によるものであり,本件事故の客観的な過失割合を反映するものではない。
◯や△が被告加入の対人賠償保険を利用せず,◯側の人身傷害保険を利用しているのは,◯自身,本件事故惹起について自らに大きな非があることを認めていたからであると考えられる。
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第3 当裁判所の判断
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2 争点1(損害賠償責任の有無と過失相殺)について
(1) 当裁判所は,原告に生じた損害について,被告に民事上の責任はないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
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オ 物損での示談は,証拠上,特にその成立に問題があるとはいえないが,物損での示談の内容が,直ちに人損に関する請求である本件に影響を及ぼすものではないし,物損を早期に5対5の過失割合で解決したことに関して,人損の過失割合を,上記物損の過失相殺の割合を考慮して決するべきであるとするような特段の事情も認められないから,物損での示談があることが,被告が民事上の責任を負わないとする上記判断を左右するものではない。
解説
損害保険会社の実務上,物損と人損の両方がある場合,物損について先行して示談することが広く行われています。
物損の示談については,事故から間もない時期になされることが多いことから,その過失割合の判断に際して十分な検討がされていないこともあります。
本判決は,物損で5:5の過失割合で訴訟外の先行示談が成立した後,人損について訴訟が提起された事案です。
裁判所は,物損の示談の内容が直ちに人損請求に影響を及ぼすものではないし,早期に5対5の過失割合で解決した物損の過失割合を考慮して人損の過失割合を決するべきであるとするような特段の事情も認められないとして,被告の過失を否定して原告の請求を棄却しました。
物損について相手方の保険会社が過失相殺を主張していなかったので安心していたところ,人損の請求段階で過失相殺を主張される例は普通に見られます。
本判決のとおり,物損の示談における過失割合の判断は,人損の示談における過失割合の判断を法的に拘束するものではありませんので,注意が必要です。