昇給を考慮して休業損害の基礎収入が認定された事例

東京地判平成16年12月21日交通事故民事裁判例集37巻6号1721頁

争点

 休業損害の算定において,昇給可能性を考慮して基礎収入が認定されるかが争点となりました。

判決文抜粋


(13)休業損害         469万1963円
 証拠によれば,原告◯は,本件事故当時32歳で,銀行に勤務しており,前年である平成9年度には,639万7107円の収入を得ていたこと,原告◯と同期入社社員の給与収入の平成10年から同13年までの推移に照らして,平成10年度から症状固定日である平成12年5月当時までについては,原告ら主張のとおり,毎年5パーセントの上昇を前提とした推定年収により休業損害を算定することに不合理はないといえる。
 そうすると,原告◯の休業損害は,以下のとおり合計469万1963円となる。
    平成10年度 671万6962円-559万5212円=112万1750円
    平成11年度 705万2810円-461万2589円=244万0221円
    平成12年度 740万5450円×136/366-436万4440円×136/366


解説

 本件は,事故で自賠法施行令(平成18年4月1日改正・施行以前の基準)所定の後遺障害等級1級3号(重度の神経系統の機能又は精神の障害のために生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について常に他人の介護を要するもの)が認定されるほどの脳外傷の重傷を負い,2年以上の長期にわたって入院した事例です。

 給与所得者の休業損害の認定では,一般に事故前3ヶ月の支給金額の平均で収入日額が算定されますが,本件では,同期社員の昇給状況を考慮して症状固定日まで年5%の上昇を前提とした推定年収によって休業損害が算定されました。

 先例として,同僚の現実の昇給率を基礎に昇給の可能性を推定して逸失利益を算定した原審の判断を支持し,「死亡当時安定した収入を得ていた被害者において、生存していたならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが、証拠に基づいて相当の確かさをもつて推定できる場合には、右昇給等の回数、金額等を予測し得る範囲で控え目に見積つて、これを基礎として将来の得べかりし収入額を算出することも許されるものと解すべき」だと判示した最高裁判例(最三小判昭和43年8月27日民集22巻8号1704頁)があります。

 本件も同様の枠組みに沿い,現実の昇給傾向から昇給後の基礎収入を認定したものと考えられます。

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