横浜地判平成9年10月30日自保ジャーナル1238号2頁
争点
事故が原因の欠勤で生じた昇給・昇進の遅延による減収が争点となりました。
判決文抜粋
五 休業損害(原告の請求 二四〇万円)
一般に、欠勤のために昇給・昇格の遅延による減収があった場合は、右減収額は休業損害となると解する。
証拠によると、原告は、平成四年四月時において二万円の昇給が行われるはずであったところ、本件事故による長期欠勤のため現状据え置きとされたこと、他の同僚と比較して給与面で差が生じていること、据え置かれた昇給を回復する処置は未だとられていないが、賞与は増加しており、年収としては減額にはなっていないことが認められる。
右の事実によると、原告は、本件事故により昇給が行われなかったことによる減収があり、現在のところ昇給の遅れは解消されていないが、右解消に一〇年間を要することを認めるに足りる証拠はなく、昇給の遅れが解消されるには五年間を要するものと認めるのが相当である。
したがって、休業損害として、月二万円の五年分に相当する一二〇万円を損害と認める。
解説
事故による受傷が原因で欠勤を余儀なくされ,昇給や昇格に影響が及ぶ場合があります。
本件は,欠勤による昇給・昇進の遅延による減収が休業損害として認められた事例の一つです。
判旨は「一般に、欠勤のために昇給・昇格の遅延による減収があった場合は、右減収額は休業損害となる」と述べていますが,このような事故による減収が損害として認められることについては,理論的に争いはありません。
実務的に問題となるのは,「欠勤による昇給・昇進の遅延による減収」があったことの立証のハードルです。
公務員や一部大企業のように昇給・昇格などに関する規定が整備されていれば,欠勤と昇給・昇進との関係を証明しやすいと思われますが,中小企業や個人商店の従業員など昇給・昇格規定が整備されていない場合には,昇給・昇格の遅れが事故と因果関係があるとの証明は相当に難しいと思われます。
その他には,昇級遅延の影響による減収がいつまで続くのかについての立証も問題となります。
定年まで続くようにも思えますが,本件では原告主張の10年について認めるに足りる証拠はないとして,減収期間が5年に限定されています。