大阪地判平成13年10月17日交通事故民事裁判例集34巻5号1403頁
争点
健康保険給付に関し,素因減額と損益相殺による控除の先後が争点となりました。
判決文抜粋
原告は,自賠責保険以外からの損害の填補として68万3153円を主張しており,甲4によりその内訳は,大阪厚生年金病院への治療費につき,保険会社が支払った15万1562円と社会保険が負担した53万1591円であると認められるところ,社会保険負担分については,素因減額前に填補を認めるため,当初から損害額として計上せず,素因減額後の損害の填補とも扱わないこととする。
解説
過失相殺と損益相殺の先後については,最高裁判所の判例がないものの,ほとんどの下級審判決では,損害額から健康保険給付を控除した後に過失相殺する扱いが取られています。
過失相殺と損益相殺の控除の先後に関しては,過失相殺前に控除する方が被害者にとって有利な計算となります。
例えば,過失割合が被害者20:加害者80で,総損害額が1,000万円,損益相殺されるべき利益が500万円だとします。
過失相殺前に控除する方法で計算した場合には,(1,000万円-500万円)✕0.8=400万円になり,過失相殺後に控除すると,1,000万円✕0.8-500万円=300万円となります。
このように,損益相殺の先後によって,損害賠償額に違いが生じることになります。このことは,素因減額の場合も同様に当てはまります。
本判決は,素因減額が認められる事案において,素因減額前に健康保険給付を控除するか,素因減額後に健康保険給付を控除するかが問題となるところ,素因減額前に控除すべきであるとして,当初から損害額として計上せず,素因減額後の損害の填補としても扱いませんでした。
素因減額前に控除するのであれば,健康保険給付分を損害額に計上したとしても,そのまま同額を控除することになるだけであるため,便宜上,最初から損害に計上しない処理を行ったものと考えられます。
本判決は,健康保険給付に関する素因減額と損益相殺の問題について,過失相殺の場合と同様に,素因減額前に控除した事例の一つとして,参考になると考えられます。