事故車の軽自動車税の未経過分が損害として否定された事例

東京地判平成30年6月20日交通事故民事裁判例集 51巻3号722頁

争点

 事故車の軽自動車税の未経過分が損害として認められるかが争点となりました。

判決文抜粋


 2 争点及び争点に関する当事者の主張

 (原告の主張)

   オ 物件損害 43万5885円
 (内訳)レッカー代3万0765円,車両代(工賃込み)25万円,新品タイヤ代1万円,物品損害代14万4000円,印鑑証明書取得代720円,軽自動車税400円

 (被告らの主張)
 既払金は認め,その余は不知ないし争う。

第3 当裁判所の判断

  (9) 物件損害 20万4685円
 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故によってレッカー代として3万0765円(甲12),車両損害13万円(甲13,14。原告二輪車の年式及び本件事故当時の走行距離が証拠上判然としないから,車両相当額(工賃込み)12万円,タイヤ代1万円を損害と認める。),着衣損として4万3200円(甲9。購入時期及び購入金額に照らし,甲9記載の合計金額14万4000円の3割相当額を損害と認める。),印鑑証明書取得代として720円(甲8。取得のための交通費420円を含む。)の支出等を余儀なくされたと認められるから,その合計額20万4685円を本件事故と相当因果関係のある原告の損害と認める。
 この他にも,原告は,軽自動車税400円(年1600円の3か月分)を請求するが,これは本件事故と相当因果関係のある原告の損害とは認めがたい。


解説

 軽自動車税については,「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称「赤い本」)」や「日弁連交通事故相談センター 交通事故損害額算定基準(通称「青本」)にも解説がなく,未経過分を損害として認めた裁判例も見当たりません。

 自動車税の未経過分が損害として認められないのは,抹消登録により還付請求が可能であるためだとされています(東京地判平成13年12月26日交通事故民事裁判例集34巻6号1687頁,大阪地判平成26年1月21日交通事故民事裁判例集47巻1号68頁)。

 軽自動車税には還付制度がありませんので,自動車税と異なり,未経過分が損害として認められるかが問題になります。

 詳しい理由は挙げられていませんが,本判決は,「原告は,軽自動車税400円(年1600円の3か月分)を請求するが,これは本件事故と相当因果関係のある原告の損害とは認めがたい。」と判示して,軽自動車税の未経過分を損害として認めませんでした。

 自動車税の場合は,買い替え車両を新規登録をした月の翌月から3月までの月割り分が課税されますが,年度の途中で車両を取得しても,軽自動車税は翌年度4月1日所有の時点まで課税されません。

 つまり,年度内に買い替えすれば,翌年度まで軽自動車税を支払わなくて良いことになります。

 したがって,事故があっても無くても支出が変わらないため,還付制度がない軽自動車税についても,未経過分が損害として認められなかったと考えられます。

 もっとも,事故が原因で軽自動車税が課税される買い替え車両に乗らなくなった場合(事故の後遺症が原因ででバイクに乗らなくなった等)は,軽自動車税の支払いが無駄になりますので,未経過分が損害として認められる可能性はありそうです。

 また,前述の通り,自動車税と異なって車両の新規登録時点で課税されませんので,買い替え車両の軽自動車税は争点になりません。

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