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治療中に任意保険会社が医療機関に直接支払いをするのは義務ではない?

2019.03.16

一括払とは?

 交通事故で,加害者が任意保険に加入していると,加害者が加入している任意保険会社から治療費が病院へ直接支払われる手続きが取られるのが一般的です。

 この治療費の支払いは「一括払」「一括対応」と呼ばれる手続き(以下の記載では,「一括払」で統一します)の中で行われています。

 損害賠償請求訴訟においては,被害者が損害額を立証する必要があり,損害賠償では損害額が判明した後の「後払い」が原則です。

 この原則に従うと,治療開始時点では将来的に発生する実際の損害が不明であるため,被害者は自分の負担で通院等を続け,症状固定時期をむかえて損害が確定した時点で加害者に請求するということになります。

 しかしながら,重篤事故や治療の長期化など,治療費が多額になって被害者が負担しきれない場合が出てきます。健康保険の高額療養費制度を利用するとしても,治療が長期化すれば毎月の支出が積み重なって相当な負担になります。

 対処方法として,被害者が自賠責保険に請求して治療費の回収をすることが考えられますが,傷害の120万円の上限を超えるような場合には填補されません。また,仮払いの仮処分を裁判所に申し立てる方法もありますが,非常に手間がかかります。

 このような状況を踏まえ,「一括払」手続きの中で,任意保険会社が治療費を病院へ直接支払う手続きが広く行われています。

 「一括払」の用語の意味ですが,自賠責保険金と任意保険の対人賠償保険の保険金を任意保険会社が一括して取り扱い,被害者に支払うことをさして,「一括払」と呼んでいます。任意保険会社は,被害者に賠償金を支払った後,自賠責相当部分について自賠責保険会社から支払いを受けます。

下級審の裁判例

 一括払の法的性質についての最高裁判所の判例はありませんが,立て替え払いにすぎないことを示した下級審の裁判例がいくつか存在しています。

大阪高判平成元年5月12日交民22巻3号567号

医療機関が任意保険会社に治療費の請求を行った事案ですが,


昨今交通事故の被害者の治療費の支払に関し任意保険会社と医療機関との間で行われている「一括払い」なるものは,保険会社において,被害者の便宜のため,加害者の損害賠償債務の額の確定前に,加害者(被保険者),被害者,自賠責保険,医療機関等と連絡のうえ,いずれは支払いを免れないと認められる範囲の治療費を一括して立て替え払いしている事実を指すにすぎず,立て替え払いの際保険会社と医療機関との間に行われる協議は,単に立て替え払いを円滑にすすめるためのもので,保険会社に対し医療機関への被害者の治療費一般の支払い義務を課し,医療機関に対し保険会社への右治療費の支払い請求権を付与する合意を含むものではないと解するのが相当である。


と判示し,医療機関の請求を認めませんでした。上記の通り,判決理由では一括払いが単なる立て替え払いにすぎず,支払い義務の承認をともなうものではないことが示されています。

東京地判平成23年5月31日交民44巻3号716頁

 任意保険会社が,被害者の治療を行った医療機関に対し,過剰な診療による報酬相当額分及び過大な診療報酬単価相当額分の不当利得返還請求を行った事案ですが,


原告は被害者に対し損害賠償金相当額の保険金を支払うとしても,本件の各交通事故を原因として不法行為等に基づいて生じる損害賠償金相当額を超える保険金を支払うものでないことは明らかである。そして,原告は被害者が負担する診療報酬を立て替えて被告に対し支払うにすぎないのであるから,原告が被告に対し本件の各交通事故を原因として不法行為に基づいて生じる損害賠償金相当額を超える診療報酬を支払ったときは,原告は被告に対し法律上の原因に基づかないで診療報酬を支払い,原告はその診療報酬相当額の損失を受け,被告はこれを不当に利得したと解することが相当である。


と判示し,過剰診療部分の不当利得返還請求を認容しました。ここでも,判決理由中で一括払による治療費の支払いが立て替え払いに過ぎず,債務額を承認したものではないことが示されています。

一括払の性質と注意点

 上記裁判例を踏まえて一括払の性質を整理すると,

  • 任意保険会社の義務ではなく,便宜上(サービスで)行われるにすぎない。
  • 立て替え払いに過ぎず,支払い義務の存在を認めるものではない

 ということになります。

 被害者側に過失が多い事故では,任意保険会社が一括払を拒む場合があります。これは過剰払いを危惧したものだと考えられますが,あくまでサービスですので,任意保険会社に一括払を強制する手段はありません。

 また,治療が長期化すると,一方的に治療費の支払いを打ち切ってくることがあります。この打ち切りは,任意保険会社の立て替え払いのサービスを終了するという意味にすぎません。

 この場合も,任意保険会社に治療費打ち切りを強制的に撤回させる手段はありません。

 もっとも,任意保険会社の治療費支払いの打ち切り時がそのまま症状固定時となるわけではありません。症状固定時期を争う場合には,自身の考える症状固定時まで自費で治療し,後日治療費を請求することになります。

 一括払があくまで立て替え払いに過ぎず,支払い義務の存在を認めたわけではないという点にも注意が必要です。

 東京地判平成23年5月31日交民44巻3号716頁の事例のように,任意保険会社から医療機関に治療費が支払われていたとしても,後日過剰治療だったとして返還を求められることもありえます。

 また,接骨院や整骨院で柔道整復師の施術を受ける場合において,示談交渉段階では任意保険会社は既払いの柔道整復師の施術費用を認める傾向にありますが,訴訟に移行すると,柔道整復師の施術が事故と相当因果関係のある損害かどうかを争うケースは少なくありません。

 柔道整復師の施術費用が損害として認められるためには,施術の必要性,施術内容の合理性,施術の相当性,施術の有効性などの主張・立証が必要になります。

 医師の指示の下に行われたものであれば,治療の一貫として評価されますが,医師の指示のない場合には,上記の要素について積極的に主張・立証する必要があり,立証が不十分であれば,施術費用は損害として認められないことになります。

 このように,医師の指示によらずに柔道整復師の施術を受ける場合,任意保険会社が一括払による施術費用の立て替えを了解していたとしても,後日争いになる可能性があることには注意が必要です。

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