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自賠責で認定を受けた高次脳機能障害7級4号の後遺障害等級が否定された事例

2019.08.15

名古屋地判平成29年9月19日(平成25年(ワ)第5658号)

争点

 高次脳機能障害7級4号の自賠責保険の認定結果が争点となりました。

判決文抜粋


(1) 高次脳機能障害について
 ア 原告は,本件事故による後遺障害として,高次脳機能障害が残存したと主張し,これに沿う◯病院の意見書,自賠責保険の事前認定がある。
 イ 外傷性の高次脳機能障害が残存しているか否かについては,頭部外傷にかかる画像所見の有無,事故後の意識障害の存在,臨床症状として事故後の認知障害,人格変化等の有無,程度,その他傷病状況を踏まえて総合判断されるべきものであることについては,当事者双方に争いがない。
(ア) 頭部外傷の受傷
 本件事故により,原告は頭部挫傷,顔面骨骨折の傷害を負っており,外傷性高次脳機能障害の原因となり得る頭部の外傷を受傷したと認められる。
(イ) 画像所見
 しかしながら,頭部外傷にかかる画像所見については,MRI検査で嗅覚障害の原因となる左嗅球付近の出血痕が認められたのみであり,そのほか異常所見は認められていない。経時的なMRIの比較でも,脳の萎縮といった,びまん性脳損傷の所見も認められていない。むしろ,脳PETでも局所脳血流,脳酸素代謝は全般的に良好であった。左嗅球付近は,高次脳機能障害の原因となる損傷部位である前頭葉とは異なる部位に当たる。そうすると,画像所見では,外傷性高次脳機能障害の原因を示す所見が得られていない。このことは,◯病院及び自賠責保険の事前認定でも一致しているところである。
(ウ) 意識障害の有無,程度
 他方,自賠責保険の事前認定では,初診時に意識障害があったことのほか,受傷当初,入院後数日は不穏状態が続いた,物忘れが激しいといった症状経過を考慮している。
  ここで,証拠(乙13)によれば,脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続するケースでは永続的な高次脳機能障害が残ることが多いとされており,自賠責保険の実務では,認定漏れがないように特定事案として慎重な審査を要する事案が挙げられている。そのような事案の一つとして,意識障害の有無とその程度について,初診時に頭部外傷の診断があり,当初の意識障害(半昏睡から昏睡で開眼・応答しない状態,JCSⅢ~Ⅱ,GCS12点以下)が少なくとも6時間以上又は,健忘あるいは軽症意識障害(JCSⅠ,GCS13~14点)が1週間以上続いている症例が挙げられている。
 原告の意識障害は,本件事故直後こそJCSⅢであったが,30分程度の内にJCSⅠ~Ⅱに回復しており,事故から約39時間後にはクリアな状態に回復している。すなわち,原告の本件事故後の意識障害の程度は,一般に高次脳機能障害を残すとされる程度に達していない。証拠(乙5-143)には,不穏状態が数日続いたとする記載があるが,その根拠となる診療録の記載からは,不穏状態が続いているのはせいぜい二日程度であり,それを数日と表現したものと思われるところ,自賠責保険の事前認定は,これをそのまま数日として認定の根拠としており,現実よりも長い期間を前提として判断した可能性が否定できない。
 したがって,原告の本件事故による意識障害の程度,推移は,高次脳機能障害の発症を裏付けるに十分なものではないし,自賠責保険の事前認定はその前提事実を誤って把握した可能性が否定できない。
 (エ) 症状経過
 証拠(乙17)によれば,外傷性の脳損傷に起因する高次脳機能障害は,受傷した時点で最も重篤な損傷状態にあり,その症状も最も重篤な形で出現するが,その後,リハビリによって脳機能の回復が図られる結果,症状も回復し,悪くても横ばいのまま推移し,悪化することは想定し難い。
 そこで,原告の症状経過についてみると,自賠責保険の事前認定で問題となった物忘れの訴えが診療録上みられるのは,本件事故から3か月程度が経過した平成22年10月であり(前記1(2)ウ(ウ)),その後,同様の訴えがみられるのは事故から約1年4か月経過した平成23年11月ころからである(前記1(2)ク(ウ))。そもそも,原告は本件事故後,入院中のころから,ブログを更新しており,最近あった出来事について比較的詳細に記録することができている(前記1(1)エ)。
 また,それ以前に,排尿機能の障害を疑わせる訴えがみられているが,それも本件事故から約1年後の平成23年6月になってからである(前記1(2)キ)。
 当初の△病院退院時である平成22年8月4日時点では,食事等,ほぼすべて自立の状態であったが(前記1(1)オ),平成24年9月20日時点で食事の援助が必要,通院と服薬ができないといった状態になっている(前記1(3)ウ(ア))。職場においても,事故後復職した□については体力的な理由で辞めたのに対し,それ以後の職場については,イライラや人間関係を理由に辞めている。
 妹に対する暴力も,本件事故から2年4か月ほど経過した平成25年1月ころのことである。
 このように,原告がその人格変化として主張する,事故後怒りやすくなった,物忘れが激しい,計画的に行動できなくなったなどのエピソードは,そのほとんどが本件事故から相当程度時間が経過した後のものであって,原告の症状の経過は,脳損傷を原因とする高次脳機能障害の症状の通常の経過に照らし,不自然である。
 また,原告の浪費は,ローンでパソコンを買ったという程度のもので,本件事故当時17歳の原告が,保険金として比較的大きな金額を手にしたことに鑑みれば,特段問題視するほどのものではない。
(オ) 神経心理学的検査
  神経心理学的検査の結果では,高次脳機能障害と矛盾しない内容となっているが,上記のとおり,それ以外の諸事情(画像所見,意識障害の有無・程度及び症状経過)が原告について,外傷性の高次脳機能障害があるとするには消極的なものとなっていることに加え,上記検査は本件事故から約2年経過後に実施されていること,被験者の協力なしに正確な数値が測定できない類のものであること,本件事故前の原告の知的水準から著しく低下したと認めるに足りる証拠もないことを踏まえると,かかる検査結果のみで原告の高次脳機能障害の存在を認めることは困難である。
ウ 以上に述べてきたところによれば,原告に本件事故による後遺障害として,高次脳機能障害が残存したと認めることはできない。


解説

 本件は,自賠責の事前認定で7級4号が認定され,原告が9230万4590円及び遅延損害金の支払いを求めて提訴した事案ですが,訴訟において自賠責の事前認定結果が否定され,既払い金を控除した後のわずか49万9938円が認容額となりました。

 裁判所は自賠責の認定結果を重視する傾向にあり,自賠責の認定結果と異なる判断がなされるケースは稀であるとは思います。

 後遺障害の認定基準については,労災保険と同様に『労災補償障害認定必携(一般財団法人労災サポートセンター編著)』に準拠して行われていますが,その基準には,例えば「両目が失明したもの(1級1号)」のように客観的に明確なものもあれば,「局部に頑固な神経症状を残すもの(12級13号)」「局部に神経症状を残すもの(14級9号)」のように抽象的なものもあります。

 高次脳機能障害の基準も,神経症状と同様一義的なものではありません。

 訴外の示談では通常認められない遅延損害金を獲得できることもあり,高額事案では訴訟提起のメリットが大きいことは確かです。

 しかし,本判決を見ればわかるように,訴訟で必ずしも自賠責の認定結果が維持される保証はありません。

 特に高次脳機能障害などで認定結果が微妙な事案では,自賠責の認定結果が覆るリスクがあることを十分に理解した上で,訴訟を提起するかどうかの判断をする必要があります。

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