休業は無いが、減収となった歩合制報酬の社員について休業損害が認められた事例

東京地判平成28年3月16日(平成26年(ワ)第20530号)

争点

 会社の勤務は継続していて休業していないが,事故の影響で保険契約の販売件数が落ちて減収となったライフプランナーの休業損害が争点となりました。

判決文抜粋


(原告の主張)

(3) 休業損害 6999万3469円
 訴外会社のライフプランナーの報酬は歩合制であるところ,本件事故による頚部および腰部の疼痛やこれに起因する通院等のために,外回りの営業活動等が著しく制限され,保険契約の販売数が大幅に減少し,本件事故前1年間は平均月額105万1173円であった初年度手数料が,本件事故後には平均月額6万1442円に減少した。
 また,本件事故前1年間は平均月額73万8836円であった業績継続ボーナスが,本件事故後には平均月額1万4425円に減少し,訴外会社の全ライフプランナーの初年度手数料合計の平均値の50パーセント未満となったため,平成24年度および平成25年度の業績継続ボーナスが支給されなくなった。
 さらに,初年度手数料が減少することにより,継続手数料および退職金も減少することとなった。

(被告の主張)

(3) 休業損害
 本件事故の発生状況,原告車両および被告車両の損傷状況,同損傷状況から推察される衝撃の程度等からすれば,原告がライフプランナーの業務に影響が生じるほどの傷害を負ったとは考えられず,現に,原告は,痛みを訴えつつも業務自体は行っており,休業をしていない。

第3 当裁判所の判断

 3 休業損害 500万円
(1) 休業損害の有無
 ア 原告は,本件事故後も,数日を除けば,休業しておらず,勤務は続けていたと認められる。
 しかし,訴外会社の報酬体系(上記第2の1(6)イ)上,新規の保険契約が販売できれば,初年度手数料が増え,それに伴い継続手数料や業績継続ボーナスも増えていくという関係にあることから,初年度手数料の多寡が原告の報酬額の多寡を決定する最も大きな要素となるところ,原告の1か月当たりの平均初年度手数料額は,平成18年が74万8553円,平成19年が86万5118円,平成20年が32万3172円,平成21年が113万5507円,平成22年が10万6404円,平成23年1月から7月が169万1454円であったが,本件事故後の同年8月から12月は10万1206円,平成24年は1万7941円,平成25年は6万6625円となっており,顕著な減少傾向を示している。
 イ 原告が新規の保険契約を販売する際の流れは,①接待や付き合い,地域活動などに参加し,交友関係を広げ,深めていく,②上記の活動の中から,保険に興味を持った者から,個人の場合は生活状況等の聞き取りを行い,法人の場合は経営状況等の聞き取りを行う,③聞き取った内容を基に,個人や法人に適した保険契約のプランを提案する,④プランに納得してもらえれば,契約の申込みを受けるというものであると認められる。
 このような保険契約の販売の流れに鑑みれば,接待等の件数が減少すれば,保険契約の販売件数や金額が減少する可能性が高いといえるところ,本件事故前12か月に44件(1か月平均3.67件)あった接待等(①)の件数は,本件事故後8か月で10件(1か月平均1.25件)に減少し,その結果,本件事故前12か月に119件(1か月平均9.92件)あった商談(②ないし④)の件数は,本件事故後8か月で30件(1か月平均3.75件)に減少している。
 ウ 原告は,上記イの接待等の減少の原因について,本件事故により生じた疼痛等のために接待等に参加しにくくなったためであると供述しているが,訴外会社の報酬体系は完全歩合制であり(上記第2の1(6)イ),接待等の件数の減少は将来にわたる報酬額の大幅な減少につながりかねず,本件事故以外に原告が接待等の件数を減少させる原因は特に見当たらないことからすると,原告の上記供述を疑う理由はない。
 エ 上記の各事情を考慮すると,原告は,本件事故により,接待等の件数を減少させざるを得ず,それにより商談の件数も減少し,その結果,保険契約の販売件数・金額が減少し,初年度手数料をはじめとする報酬額の減少をもたらしたと認められるから,休業損害の発生自体は肯定することが相当である。


解説

 交通事故後も会社への勤務は継続しているものの,事故前よりも接待や商談の件数が少なくなり,その結果として保険契約の手数料が減り,歩合制の原告の給与が下がっているとして休業損害が認められました。

 一見,休業していない被害者について休業損害を認めたようにも見えますが,接待や商談件数の減少に着目していることからすると,接待や商談を仕事の一部と考え,事故でその仕事を休業せざるをえなくなったことから減収となり,休業損害が発生したと判断していると考えるのが自然です。

 したがって,本判決で,休業の事実がなくても減収があれば休業損害が認められるというような考え方を裁判所が採用したとまではいえないように思います。

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