慰謝料算定において、事故態様及び加害者の事故後の行動の悪質さが考慮された事例

大阪地判平成18年2月16日交通事故民事裁判例集39巻1号205頁

争点

 無免許運転,飲酒運転,信号無視といった事故態様や,事故後の行動が慰謝料増額事由として考慮されるかが争点となりました。

判決文抜粋


オ 亡◯の慰謝料 3000万0000円
 本件交通事故により,前途ある17歳であった亡◯が死亡しており,その肉体的・精神的苦痛は極めて甚大である。
 証拠によれば,以下の事実が認められ,これらの事情に鑑みると,亡◯の肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料の金額は,3000万円とするのが相当である。
(ア)無免許運転
 被告は昭和59年ころ免許取消処分を受けたにもかかわらず,その後免許を取得しないまま,平成13年2月ころ加害車両を購入し,毎日の通勤に使用しており,遵法意識の欠如は著しい。本件交通事故も無免許運転で発生したものである。
(イ)飲酒運転
 被告は飲酒運転が常態化しており,遵法意識の欠如は著しい。本件交通事故も,飲酒の影響で正常な運転ができない程の酩酊状態における運転で発生したものである。
(ウ)信号無視
 被告は,同乗者が「赤やで,ストップ,ストップ。」と制したにもかかわらず,赤信号を無視して本件交差点に進入し,本件交通事故を発生させたものである。
 それに対して,亡◯は青信号に従って横断歩道上を自転車で横断走行していたものであって何の落ち度もない。
(エ)事故直後の被告の行為
 被告は,衝突後,頭部から大量の血を流して倒れている亡◯に対して,「危ないやないか。」などと怒鳴りつけ,衣服の一部を引っ張るように持ち上げて揺すり,投げ捨てるように元に戻した。


解説

 本判決では,被害者自身の死亡慰謝料3,000万円,近親者固有の慰謝料として両親及び妹に各々300万円が認められています(合計3,900万円)。

 大阪地裁の損害賠償基準として用いられている「交通事故損害賠償算定のしおり(通称「緑のしおり」「緑本」)」によると,一家の支柱(被害者の世帯が、主として被害者の収入によって生計を維持している場合)以外の慰謝料の基準は2,000~2,500万円とされ,注意書きに,本人分及び近親者分を含んだものであること,加害者に飲酒運転,無免許運転,著しい速度違反,殊更な信号無視,ひき逃げ等が認められる場合には慰謝料の増額を考慮するとの記載があります。

 近親者慰謝料が認められる場合でも慰謝料の総額が増えるわけではありませんので,本件では明らかに慰謝料が増額されていることがわかります。

 本件は,無免許運転,飲酒運転,殊更な信号無視のほか,事故後に被害者に怒鳴りつけて投げ捨てるといった極めて悪質な事故態様及び事故後の行動が考慮されて大幅な慰謝料の増額となりました。

 被害者側でよく不満を感じる事情としては,加害者が保険会社まかせにしている,見舞いにこない,謝りにこないなどといったものがありますが,この程度であれば,慰謝料の基準に織り込み済みであるとして,増額事由にはなりません。

 一方,加害者の行為が極めて悪質である場合には,本件のように基準を大幅に超える慰謝料が認定されることもあります。

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