大阪地判平成28年4月14日自保ジャーナル 1977号49頁
争点
大学卒業後に派遣社員で働いていた24歳男性の基礎収入が争点となりました。
判決文抜粋
証拠によれば、原告は、平成19年3月に◯大学△学科を卒業した後、同年12月に□株式会社に派遣社員として入社し、派遣先の製作所で週5日程度勤務して信号機の制御システムや電車床下の制御システムの組立て等に従事し、本件事故当時は月額21万9088円の収入を得ていたこと、原告は、農学部系の大学院への進学を目指していたが、大学卒業前に一度受験して不合格となり、その後は大学院の試験を受けておらず、本件事故当時は、上記のとおり派遣社員として週5日程度勤務するかたわら、高校生の頃から手掛けているインターネットオークションでバイクの部品や昆虫等の取引を幅広く行っていたことが認められる。そうすると、原告が大卒の学歴を有し、症状固定時に若年であったことを考慮しても、将来原告が大学院に進学し専門的な職種に転職することによって、生涯を通じて大卒・男子全年齢平均賃金を得られる具体的な蓋然性があるとは認め難い。もっとも、原告の学歴、能力等に照らせば、本件事故当時の実収入額をもって後遺障害逸失利益算定の際の基礎収入とするのは低きに失し、後遺障害逸失利益算定の際の基礎収入は平成24年賃金センサス学歴計・男子年齢別(25~29歳)平均賃金である391万9000円とするのが相当である。
解説
東京地方裁判所,大阪地方裁判所,名古屋地方裁判所の3庁による交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言(平成11年11月22日)において,原則として事故前の実収入額によるけれども,おおむね30歳未満の者について生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合には全年齢平均賃金によるとされたことを受け,裁判実務では,30歳未満の若年労働者については,実収入が少なくとも平均賃金にもとづいて基礎収入を認定する傾向にあります。
そして,大卒労働者については,生涯を通じて大卒・全年齢平均賃金を得られる具体的な蓋然性が認められる場合には,当該平均賃金をもとに基礎収入が認定されています。
本判決は,大学卒業後派遣社員として稼働し,事故当時月額21万円9,088円の収入を得ていた被害者について,「大卒の学歴を有し、症状固定時に若年であったことを考慮しても、将来原告が大学院に進学し専門的な職種に転職することによって、生涯を通じて大卒・男子全年齢平均賃金を得られる具体的な蓋然性があるとは認め難い」として,大卒・男子全年齢平均賃金にもとづく基礎収入を認めませんでした(学歴計・男子年齢別の平均賃金である391万9,000円が基礎収入として認定されています)。
本判決に見られるように,30歳未満の若年労働者で,さらに大学卒業の学歴があったとしても,非正規労働者については厳しい基礎収入の認定を受けているのが実情です。