事故後の修正申告書の所得金額が基礎収入として認められなかった事例

神戸地判平成26年2月28日(平成24年(ワ)第782号)

争点

 事故後の修正申告書の所得金額が基礎収入として認定されるかが争点となりました。

判決文抜粋


イ 基礎収入について
 原告は,平成21年分の所得税の修正申告書記載の所得金額995万3976円を,休業損害算定の基礎収入とすべきであると主張する。そして,原告は,この金額は税務署からの指示に従って,言われるまま記載したものであり,税務職員の徹底した調査によりその正確性は担保されていると主張し,本人尋問においても同旨の供述をしている。
 しかし,同年の所得金額が原告の主張するものであったと認めるに足りる具体的な証拠は何ら提出されておらず,原告自身も,平成21年に3255万円の売上があったことは確認していないと供述している(原告本人27ページ)ことからすると,税務職員による調査を経ているとの一事をもって,原告が上記のような収入を得ていたと認めることはできない。そして,このほかに原告の実収入を具体的に認めるに足りる証拠は見当たらない。
 もっとも,原告は,本件事故当時,中学生である娘のほか,原告の父母と同居して生活していたところ(原告本人48ページ),生活が困窮する状態にあったことをうかがわせる証拠は何ら存在しない。かえって,原告は,第一種電気工事士や高所作業車運転者の資格を取得しているなど,電気工事業を営むについて相応の技能を有していると認められることや,原動機付自転車をはじめ,250ccクラスのバイクなどを合計6台保有していたことからすると(原告本人33ページ),原告には少なくとも年齢相応の収入があったというべきである。
 そうすると,原告の基礎収入は,本件事故日が属する平成21年における男性の全学歴平均賃金(40歳~44歳)である619万0300円と認めるのが相当である。


解説

 事業所得者の基礎収入の認定では事故前年度の申告所得が参照されるのが一般的ですが,節税目的で実際よりも所得を低く申告する者が存在することは否定出来ないところです。

 裁判所は,申告所得を超える実収入額を証明できれば,申告外所得を認める見解を採用しているものの,実際のところ,申告外所得を認めることには極めて慎重であり,厳格な立証が求められています。

 事故後に修正申告を行われるケースもありますが,高額所得を申告する動機が発生しているため,事故前の申告内容と比較して信用性が低いものとして扱われているように思います。

 本判決は,修正申告の所得を裏付ける具体的な証拠による証明がなされていないとして,修正申告の所得金額を休業損害の基礎収入とすることを否定しています。

 一方,立証不十分で申告所得を超える実収入額を認定できないとしても,生活実態から事業所得者に相当の収入があると認められる場合であれば,賃金センサスの平均賃金額を参考に基礎収入を認定するケースもあります。

 本件では,少なくとも年齢相応の収入があったとして,本件事故日が属する平成21年における男性の全学歴平均賃金(40歳~44歳)である619万0300円が基礎収入として認定されています。

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