要介護家族の施設入居費用が損害として認められた事例

大阪地判平成27年3月3日交通事故民事裁判例集48巻2号279頁

争点

 事故被害者から介護を受けていた夫の施設入居費用が損害として認められるかが争点となりました。

判決文抜粋


(ウ) 原告の主張
 原告は夫の介護をしていたところ,原告が入院したことから,入院期間中夫を有料老人ホームに入所させる必要があった。

(エ) 被告の主張
 本件事故により原告が夫の介護ができなくなったとは認められないし,費用の因果関係も認められない。また,休業損害と重複する。

第3 当裁判所の判断

(7) 休業損害及び夫の施設入所費用について
 ア 本件事故による入通院を原因として原告の家事労働が妨げられ,その結果,介護を受けていた夫を施設に入所させる必要が生じたことは認められるので,この点については本件事故と相当因果関係のある損害として認められる。そして,夫が施設に入所していた期間の大半が原告の入院期間中であり,この期間中に夫が原告から介護を受けられる可能性は皆無であったこと,また費用としても約2か月で60万円程度であり,著しく高額であるともいえないことに照らすと,夫の施設入所費用及びその関連費用については,その全額につき本件事故と相当因果関係があるものと認める。
 イ 次に,原告の休業損害についてみると,原告が入院期間中80日間は全く家事労働ができず,またその後の通院治療期間においても一定の制約を受けていたことは認められる。しかし,家事労働は他人のために行われるものであってはじめて金銭評価できるものであるところ,夫は上記のとおり原告の入院期間中に施設に入所しており,入所期間中においては,夫が施設に入所していることによって,他人のための家事労働の必要性はなくなっていた,あるいは上記の施設入所費用によって原告の休業によって生じた損害がまかなわれていたといえる。そうすると,原告の休業損害として評価できるのは,入院期間80日のうち夫が施設に入所していた61日を控除した19日間,及び実通院日数32日のうち夫が施設に入所していた1日を除く31日間の合計50日間であると認める。なお,実通院日において原告が全く家事を行う余地がなかったか否かについては疑問も残るが,原告の家事には通院日以外の日においても一定の支障があったと認められ,そのような事情も併せて考慮すると,通院治療期間全体を通じた家事労働に対する支障への評価として,日額基礎収入に実通院日数を乗じる形で算出することは不相当であるとはいえない。


解説

 本件では,被害者が事故で入院したことにより,被害者が介護していた夫を介護施設へ入居する必要が生じたとして,入居費用等が事故と相当因果関係のある損害として認められました。

 一方,被害者は家事従事者であるところ,家事労働は他人のために行われるものであってはじめて金銭評価できるとして,夫が施設に入居していた62日間が休業損害の算定において控除されています。

 

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