外貌醜状の後遺障害がある場合において一定年齢まで労働能力喪失率を認定して逸失利益を認め、その後の部分については慰謝料で考慮した事例

名古屋地判平成25年7月5日自保ジャーナル1908号73頁

争点

 外貌醜状12級15号(旧基準)の認定を受けた症状固定時に女子大生だった被害者について,逸失利益が認められるかどうかが争点となりました。

判決文抜粋


(逸失利益に関する被告の主張)
瘢痕は労働能力に直接的な影響はなく,仮に影響があったとしても,労働能力喪失率及び喪失期間は限定的に認定されるべきである。

第3 当裁判所の判断

原告は保育士になることを希望し,子供に接する仕事であり,瘢痕によりその就職に制限される蓋然性があることが認められ,逸失利益を肯定するのが相当である。原告がコンビニ等でアルバイトをしていることはこれを否定するものとはいえない。
そして,就職等の制限の蓋然性が高い原告が40歳になるまで(21年のライプニッツ係数から大学在籍期間の3年のライプニッツ係数を引く。)14パーセントの労働能力喪失を認め,その後の不利益は慰謝料で考慮するのが相当である。

(9) 後遺障害慰謝料(請求400万円) 300万円
原告は,本件事故により後遺障害12級の後遺症が残り,その他本件で現れた諸事情を考慮すると,後遺障害慰謝料は300万円と認められる。


解説

 外貌醜状の労働能力喪失率の認定については,醜状障害の具体的な内容・程度、被害者の性別、年齢、職業等を考慮した上で、以下のような取扱いを行っている傾向が見られます。

①醜状痕の存在のために配置転換を受けたり、職業選択の幅が狭められたりするなど労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがある場合には一定割合の労働能力喪失を肯定して逸失利益を認める。

②労働能力への直接的な影響は認めがたいが、対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で、間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれがある場合には、概ね100万~200万程度の額で慰謝料増額事由として考慮する。

③直接的にも間接的にも労働能力に影響を与えないと考えられる場合には、慰謝料も基準どおりとして増額しない。

 本件は,40歳までは①の取り扱いのように労働能力喪失率を認定しつつ,その後については慰謝料で考慮するとして,相場よりも10万円多く認定したものです。

 名古屋地裁の基準として用いられている,日弁連交通事故相談センター愛知県支部「交通事故損害賠償額算定基準」(通称「黄本」「黄色本」)平成25年1月発行の13訂版では,12級の後遺障害慰謝料について「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称「赤い本」)」と同じ290万円と記載されています。

 労働能力喪失を一定年齢まで認め,その後の部分について慰謝料で考慮した事例として参考となると思われます。

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