東京地判平成26年9月10日交通事故民事裁判例集47巻5号1133頁
争点
定年退職後の無職者について逸失利益が認められるかが争点となりました。
判決文抜粋
(6) 後遺障害逸失利益について
ア 基礎収入について
上記及び証拠によれば,原告は本件事故当時65歳であり,高校卒業後,企業に就職するなどしていたが,平成15年12月に◯株式会社を定年退職した後は職に就かず,具体的な就労の予定はなかったこと,原告は,退職後,両親の介護をするなどしていたほか,ホームヘルパーとして稼働することを考え,社会福祉法人△に通い,平成17年6月22日,介護保険法施行令第3条第1項第2号に掲げる研修の二級課程を修了したことがそれぞれ認められる。
以上の事実によれば,本件事故当時,原告は無職であったものの,就労の意欲及び能力はあったというべきである。そして,上記事情を総合考慮すれば,原告の後遺障害逸失利益算定に当たって基礎とすべき収入額は,平成20年賃金センサス高卒男子65歳から69歳年収額313万7100円の7割とするのが相当である。
解説
無職者の場合であっても,就労の蓋然性がある場合には,稼働にかかる逸失利益が認められています。
無職者の逸失利益が問題となる場面としては,本判決のように定年退職後の高齢者の場合があげられます。
本件は,被害者が平成15年12月の定年退職から事故発生日である平成20年1月11日までの間,職に着かず,具体的な就労の予定もなかった事案です。
本判決は,被害者が両親の介護をするなどしていたほか,ホームヘルパーとして稼働することを考えて平成17年6月22日に介護保険法施行令第3条第1項第2号に掲げる研修の二級課程を修了していた事実を捉え,就労の意欲及び能力があったとして年齢別平均賃金にもとづいて基礎収入を認定しています。
事故がなかった場合に,果たして被害者が職に就くことがあったのかどうかを厳密に考えると,退職後から約5年も職に就いていないことから,就労の蓋然性については疑問も残るところです。
本判決が研修修了等の事実から就労の意欲及び能力を認めた理由には,被害者救済の観点もあったように思います。
本判決だけでなく,他の裁判例を見ても,職業訓練や就職活動の実績,就労の必要性等があれば,ある程度緩やかに無職者の就労の意思を認定しているケースが見受けられ,無職者であっても一概に逸失利益が否定されていないことがわかります。