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外貌醜状9級16号の後遺障害を負った男性(事故当時19歳)について、67歳まで9%の労働能力喪失が認められた事例

2020.02.10

福岡高判平成30年12月19日自保ジャーナル2041号24頁

争点

 外貌醜状で後遺障害9級16号の認定を受けた,事故当時は未就業だった男性の逸失利益が争点になりました。

判決文抜粋


 【一審原告の主張】
 一審原告は,残存した右頬部の線状痕,鼻部右下の瘢痕,唇部右の線状痕について,外貌に相当程度の醜状を残すものとして,自動車損害賠償保障法施行令別表第二第9級16号該当の後遺障害認定を受けた。
 上記後遺障害は,右側の顔面部の人目につく程度以上のものであり,営業職等に就くことが難しくなるなど不利益を受け,現に一審原告の就職活動に影響を及ぼしており,また,瘢痕を気にして対人関係が消極的になったことにより,将来の昇進等にも影響する可能性があるから,後遺障害認定どおり第9級相当の労働能力の喪失がある。
ア 労働能力喪失率
上記後遺障害は,誰しも気付くものであり,目にした者に何らかの悪印象を与えるものである。一審原告は,事務職や内勤は想定しておらず,現場で常に市民に接する機会の多い職種を想定して,警察官や消防士を志望していたが,上記後遺障害によりできるだけ外部の人間と接触する職種は断念せざるを得ないと考えたものである。一審原告が警察官や消防士を断念した理由は,上記後遺障害による他人の印象にある。
一審原告が,面接官から上記後遺障害について質問されたのは平成28年の公務員採用試験の2回にとどまるが,それ以外に上記後遺障害の影響がなかったとはいえない。
一審原告は,結果的に市役所に採用されたものの,それは一審原告がした特別な努力の結果にほかならないし,将来昇進昇給において上記後遺障害によって人間関係において消極的になることの影響がある。また,一審原告が転職する可能性も否定できず,その際には,上記後遺障害により一審原告の職業の選択が狭まることは明らかである。
イ 労働能力喪失期間
上記後遺障害に係る瘢痕は,既に成熟しており,加齢等により目立ちにくくなるということはないし,一審原告が社会生活の中で上記瘢痕が存在する状況に順応するというのは希望的観測にすぎない。
 (計算式)
 基礎収入 年547万7000円(賃金センサス男子全年齢平均)
 労働能力喪失率 35%
 労働能力喪失期間 47年間(20歳から67歳まで)
 中間利息控除 17.981(47年のライプニッツ係数)
 547万7000円×35%×17.981=3446万8678円

 【一審被告の主張】
 一審原告の後遺障害は外貌醜状であるが,一審原告は特に外貌が重視される職業に従事するわけではなく,何ら労働能力を喪失したとはいえない。
一審原告の外貌醜状は,他人にとってある程度接近しないと分からない程度のものであり,一審原告が懸念する人と広く接触する仕事を担当する上でも特に支障になるものではない。仮に,支障があるとしても,手術や化粧により目立たなくすることは可能である。
ア 労働能力喪失率
一審原告の外貌醜状が,上記のような程度にとどまる以上,一審原告に労働能力喪失はない。
一審原告は,本件事故前から公務員を志望していたところ,志望どおりに公務員として就職しており,外貌醜状が公務員としての就労の妨げになることは考えられないし,将来の昇進等の支障となるとは限らない。
一審原告は,もともと公務員を志望していたことからすれば,他の職種に転職する可能性はないし,営業職や接客業等に転職するにしても,単に一審原告が主観的に不安を感じているにすぎない。
イ 労働能力喪失期間
そもそも一審原告に労働能力喪失はないし,仮にあったとしても,一審原告が外貌醜状のある状況に順応するのに長期を要するものとは考えられない。
ウ 基礎収入
一審原告は,本件事故後,公務員として就職し,初任給も月額約16万円であり,男子全年齢平均賃金を基礎収入とするのは不当である。

第3  当裁判所の判断

 2  争点(2)(逸失利益)について
   (1)  前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
   ア 一審原告は,本件事故に遭遇し,症状固定後も,顔面右側の目尻付近に5ないし7mmくらい,全体で約1cmの横向きの線状,目尻から下方向に約1cm×約2cmの縦長状,右眉の右端に上下各約1cmの縦向きの線状,唇右端から右鼻翼にかけて約2.5cmの鉤型状,右鼻腔,鼻翼の付け根に1mmない程度の隆起が約8mm連なる,薄茶色から肌色の瘢痕(以下「本件瘢痕」という。)が残存している。
   イ 一審原告は,本件瘢痕のうち,右頬部の線状痕,鼻部右下の瘢痕及び唇部右の線状痕について,人目につく程度以上のものであり,右頬部の線状痕が長さ5cm以上ととらえられるものであるとして,自動車損害賠償保障法施行令別表第二第9級16号の「外貌に相当程度の醜状を残すもの」に該当するとして後遺障害認定を受けた。
   ウ 一審原告は,本件事故(平成28年6月)当時19歳であり,同年3月に高校を卒業後,公務員職を目指して,専門学校に通学中であった。
   エ 一審原告は,警察官や消防士等の公務員を目指していたが,本件事故をきっかけとして,市役所の事務職等の公務員を目指すこととした。その理由としては,本件事故の際に感じた恐怖心から生命ないし身体への危険を伴う職種を避けたいと思ったことのほか,本件瘢痕が人目に触れることを気にするという点もあった。
   オ 一審原告は,本件事故後の平成28年9月に2か所の市役所の地方公務員採用試験を受けた。一審原告は,その2か所の面接の際,面接担当者から本件瘢痕について質問されることがあった。
 一審原告は,上記2か所についていずれも不採用となった。
   カ 一審原告は,翌年の平成29年に4か所の市役所の地方公務員採用試験を受けた。一審原告は,その4か所の面接の際,面接担当者から本件瘢痕について質問されることはなかった。
 一審原告は,上記のうち地元のa市役所に採用され,平成30年4月から地方公務員として勤務することとなった。
   キ 一審原告は,本件瘢痕に対する人目が気になるようになり,外出時にマスクで顔を隠すようにするなどのほか,友人との関係でも本件事故前と比較して内向的になり,将来において人間関係に問題が生じないかという不安を有するに至っている。
   (2)  事実認定に関する補足説明(一審原告の志望変更の理由について)
 一審原告は,警察官等への就職をあきらめて事務職を目指すこととしたのは,本件瘢痕のせいで一般市民と接する機会の多い警察官等の現場職は気が引けると考えたためである旨主張し,本人尋問においてもこれに沿う供述をする。
 もっとも,一審原告は,本人尋問において,本件事故の際に感じた恐怖が,警察官等の現場職をやめようと思った理由であるとも供述しているところ,警察官等の現場職では交通事故以上に生命又は身体の危険に遭遇し,本件瘢痕以上の後遺障害を負う相当程度の可能性があることなどを考慮すると,本件事故をきっかけとして一審原告が志望を変更した理由としては,事故の際の恐怖心も相当に影響したものであって,本件瘢痕が主たる理由であったとまで認めることはできない。
   (3)  労働能力喪失率について
本件瘢痕については,事前認定において,「外貌に醜状を残すもの」(自動車損害賠償保障法施行令別表第二第12級14号)にとどまらず,「外貌に相当程度の醜状を残すもの」(同別表第二第9級16号)という認定を受けている。そして,前記認定事実によれば,本件瘢痕は,一審原告の顔面右側の目元,鼻から口にかけて及び,また,個々の瘢痕自体は小さいものの,目から口にかけての範囲に散在するものであると認められ,人目につく部分に相当程度の大きさの醜状であると認められる。これに反する一審被告の主張は採用することができない。
 そして,一審原告は本件事故当時未就業であったことからすれば,俳優やモデル等の外貌そのものが重視される職種を全く志望しておらず,将来においてそのような職種に就く可能性は考えられないとしても,就業する職種等について確定していたわけではなく,営業職や接客業関係職など醜状が業績や収入に影響し得る職種などについて事実上制限されたなどの不利益があることは明らかであるから,およそ労働能力の喪失がなかったということはできない。
 もっとも,一審原告は,本件事故前から志望していた公務員として就労している。そして,一審原告は,就職活動等で本件瘢痕について質問されるなどの影響があった旨主張するが,一審原告が本件瘢痕について質問されたのは平成28年の公務員採用試験時のみであり,その時点では症状固定に至っていなかったのであるから,本件瘢痕も成熟しておらず創傷に近い状態であったとも考えられるし,症状固定後の平成29年の公務員採用試験時の面接では本件瘢痕について質問されていないというのであるから,症状固定後の本件瘢痕自体が一審原告の就職活動に実際に影響したとは,にわかには首肯し難い。
 一審被告は,一審原告は,本件事故前から志望していた公務員として現に就職しており,労働能力を喪失していない旨主張する。しかし,一審原告は,現在21歳と若年であり,将来の転職の可能性があることは否定できない。一審被告の前記主張を採用することはできない。
 以上を前提として,一審原告の労働能力喪失率について検討すると,一審原告は,本件事故当時から公務員職を志望していたところ,警察官等を諦めた点については本件瘢痕が主たる原因とまでは認められないこと,本件瘢痕は公務員採用試験には必ずしも影響せず,一審原告は当初から志望していた公務員として現に採用に至ったこと,一審原告は,当審の口頭弁論終結時点で21歳と若年であり将来の転職の可能性もあることなどの事情を総合すると,本件事故による本件瘢痕のために職業選択に当たり職種制限や将来の昇進等に不利益が生じたとしても,その影響により一審原告が喪失した労働能力は,9%と認めるのが相当である。
   (4)  労働能力喪失期間について
 本件瘢痕が存在することによる労働能力の喪失については,本件瘢痕が経年的に改善されることは認め難いことなどを考慮すれば,労働能力喪失期間は20歳から67歳までの47年と認めるのが相当である。
   (5)  逸失利益の算定
 基礎収入については,一審原告は,本件事故当時,専門学校に通学しており,未就業であったから,将来的に少なくとも平均賃金を得られる蓋然性があったものとして,賃金センサス男子全年齢平均の年547万7000円を用いる。これに対し,一審被告は,一審原告が現在既に就職して初任給が月額約16万円であることを考慮すべきであると主張するが,一審原告が症状固定時において19歳と若年であったことなどを考慮すると採用の限りでない。
 以上を前提に逸失利益を算定すると,886万3374円(1円未満切捨て。以下同じ。)となる。
 (計算式)547万7000円×9%×17.9810(47年に対応するライプニッツ係数)=886万3374円


解説

 外貌醜状はそれ自体が身体的機能を左右するものではないため,労働能力喪失が争われることが多い後遺障害の類型の一つです。

 過去の裁判例については,醜状障害の具体的な内容・程度,被害者の性別,年齢,職業等を考慮した上で,以下のような取扱いを行っている傾向があると指摘されています(河邉義典裁判官の講演録,東京三弁護士会交通事故処理委員会「新しい交通賠償論の胎動-創立40周年記念公演を中心として」ぎょうせい2002 9頁など)。

  1. 醜状痕の存在のために配置転換を受けたり,職業選択の幅が狭められたりするなど労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがある場合には一定割合の労働能力喪失を肯定して逸失利益を認める。
  2. 労働能力への直接的な影響は認めがたいが,対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で,間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれがある場合には,概ね100万~200万程度の額で慰謝料増額事由として考慮する。
  3. 直接的にも間接的にも労働能力に影響を与えないと考えられる場合には,慰謝料も基準どおりとして増額しない。

 平成22年6月10日以降発生した事故については,自賠責の後遺障害等級認定表上,男性・女性の区別がなくなったものの,裁判例を見ると,女性は比較的逸失利益が認められているものの,男性についてはなかなか認められていないというのが実情です。

 本判決は,事故当時未就業だった男性について,「本件事故当時未就業であったことからすれば,俳優やモデル等の外貌そのものが重視される職種を全く志望しておらず,将来においてそのような職種に就く可能性は考えられないとしても,就業する職種等について確定していたわけではなく,営業職や接客業関係職など醜状が業績や収入に影響し得る職種などについて事実上制限されたなどの不利益があることは明らかであるから,およそ労働能力の喪失がなかったということはできない」と判断した上で,「警察官等を諦めた点については本件瘢痕が主たる原因とまでは認められ」ず,「本件瘢痕は公務員採用試験には必ずしも影響せず,一審原告は当初から志望していた公務員として現に採用に至った」と認定しながらも,「口頭弁論終結時点で21歳と若年であり将来の転職の可能性」があることを考慮して9%の労働能力喪失率を認定しました。

 この判決理由からすると,仮に就職が決まっていなかったり,被害者が俳優やモデル等の外貌そのものが重視される職種を志望していた場合には,もっと高い労働能力喪失率が認定されていた可能性もあったと考えられます。

 そして,労働能力喪失期間については,「経年的に改善されることは認め難い」として,67歳までの期間が認定されています。

 本判決は,職業選択に当たり職種制限や将来の昇進等に不利益が生じるおそれがあることを理由に,事故当時未就業だった男性について外貌醜状の逸失利益を認めた高裁判決として参考になると思われます。

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