パートを休業していない兼業主婦について、主婦休業損害が否定された事例

福岡地判平成30年1月18日(平成28年(ワ)第2612号)

争点

 パートの休業がない兼業主婦について,主婦休業損害が認められるかが争点となりました。

判決文抜粋


〔原告の主張〕

 エ 休業損害 108万7372円
 (ア) 原告は,本件事故当時,夫と子二人と同居していた。夫及び子二人は正社員として勤務する一方,原告はパート勤務(午前9時から午後1時まで)であったことから,家事全般を原告が行っていた。
 しかし,本件事故後は,左手のしびれや頚部及び左肘の痛みがあり,特に重量物を持ったり,手に力を入れることが困難であったため,夫に買い物を手伝ってもらったり,雑巾や布巾を絞ってもらったりするなど,原告の家事労働が制限され,夫の負担が増えた。
 なお,原告は本件事故後,パート勤務を休業していないが,これは,前事故の後,既に,重量物を持たない部署に変更してもらっていたためである。原告は,本件事故後においても,痛みがひどいときに,月4,5回程度はパート勤務を休んでいた。
 原告には,◯整形外科への通院日(実通院日数109日)について,主婦としての休業損害が認められるべきである。
 (イ) 計算式
 364万1200円(賃金センサス平成26年女性労働者学歴計)×109日/365日

〔被告の主張〕

(イ) 休業損害
 原告は,パート勤務をしている兼業主婦であったところ,本件事故後において,受傷を理由とする休業をしていない。また,原告には,家事労働についても休業の必要性も相当性もない。原告の訴える症状は他覚的所見のない捻挫系の神経症状であることからすれば,受傷後に安静にしておくべき必要性もない。
 原告は,本訴提起前のみならず,本件訴状においても,本件事故当時「専業主婦」であった旨主張し,パート勤務をしている兼業主婦であったという事実及び本件事故後にパート勤務を休んでいないという事実を秘匿していた。かかる態度に照らせば,家事労働の休業の実態も,その必要性も認められないというべきである。

第3 当裁判所の判断

(4) 休業損害
 原告は本件事故の後,パート勤務(本件事故前と同じ商品の仕分け作業)を休業することはなかったこと(前記1(7)ア),原告は本件事故後においても,悪天候のときなど左手に力が入らなくなったりしたときなどに夫に料理を手伝ってもらうことがあるという程度で,家事全般は自ら行っていたこと(前記1(7)ウ)に照らし,休業の事実もその必要性も認められないから,休業損害は認められない(夫が時折原告の料理を手伝ったという程度では,家族内における通常の協力の範囲を出ないというべきである。)。
 なお,原告は,その本人尋問において,本件事故後も,手に力が入らなくなったときや首に違和感を覚えたときなど,月4,5日はパートを休んでいた旨供述するものの,休暇の具体的な取得状況を認めるに足りる客観的証拠はない。


解説

 兼業主婦については,実収入が女性労働者の全年齢平均賃金を下回る場合には,女性労働者の平均賃金をもとに家事従事者の休業損害が認められるのが交通事故の実務における一般的な考え方です。

 しかし,パート等で休業がない場合に,家事に支障が生じていたと証明するのは容易ではありません。

 本判決は,パートの休業がないことや,事故後も家事全般を担っていたことから,主婦休業損害を認めませんでした。

 なお,本判決については一審原告から控訴されており,控訴審(福岡高判平成30年6月21日(平成30年(ネ)第147号))では,自賠責保険からの既払い金により填補済みだとした一審判決を支持して控訴が棄却されているものの,判決文中で通院による支障があったことなどを考慮して,実通院日数109日につき30%の主婦休業損害が認められています。

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