6歳の死亡事故において、大卒男子労働者平均賃金が基礎収入とされた事例

東京地判平成6年10月6日交通事故民事裁判例集27巻5号1378頁

争点

 6歳男児の死亡事故における基礎収入の算定に関し,大卒労働者の平均賃金を基準にすることができるかが争点となりました。

判決文抜粋


1 ◯の逸失利益 二六七一万七九八五円
 証拠によれば、本件事故当時、◯が満六歳の健康な男子であったこと、◯は、英研式(個別)の検査方式による△の知能構造診断書再テストの結果によって、五歳四か月の段階で知能指数一五三との評価を受けるようになっていたほか、意欲が旺盛で、思考速度が速く、集中力があるとの評価も受けていたこと、◯が、平成四年度の□□小学校の入学考査に合格し、同小学校に入学する予定であったこと、□□小学校の卒業生の進学先に関する同小学校の追跡調査の結果、同小学校が把握している範囲では、同小学校に昭和四五年に入学して昭和五一年に卒業した二五名のうち二四名(医学部に進学して医師になった者は九名である。)。昭和五〇年に入学して昭和五六年に卒業した卒業生三二名のうち二五名(医学部に進学した者は二名である。)が、海外留学を含め、それぞれ大学に進学しているなど、ほぼ例外なく大学に進学していることが認められる。そして、知能指数の高低が直ちに将来の進学等と結びつくとはいえず、◯の年齢等不確定な要素が多いとはいうものの、本件事故当時における◯の知能の程度、右□□小学校の追跡調査の結果などを総合考慮すると、◯は、本件事故に遇わなければ、大学の医学部に進学して医師又は歯科医師となる高度の蓋然性まで認めることは困難であるとしても、少なくとも四年制の大学に進学してこれを卒業する高度の蓋然性があると認められるから、これを前提とし、二二歳から六七歳までの四五年間にわたり稼働可能であり、その稼働期間中、賃金センサス平成四年第一巻第一表の産業計大卒男子労働者全年齢の平均年収六五六万二六〇〇円を得られたはずであると認めるのが相当である。そうすると、右年収額を基礎に、右全期間について生活費控除を収入の五割の割合で行ったうえ、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息の控除を行うと、◯の逸失利益の現価は、次の計算式のとおり、二六七一万七九八五円(円未満切り捨て)となる。
   (計算式)六五六万二六〇〇円×(一-〇・五)×(一八・九八〇二-一〇・八三七七)=二六七一万七九八五円


解説

 未就労の年少者については,賃金センサスを基準として基礎収入が算定されるのが通常です。

 そして,年少者については,事故がなければ将来大学を卒業していたとの主張がなされ,しばしば大学卒労働者平均賃金を基礎収入として算定すべきかが争点となっています。

 大学卒業の蓋然性が認められるかどうかが問題になるところですが,高校生や浪人生で大学卒労働者平均賃金を基礎収入として認定した裁判例が散見されるのに対し,中学生以下で認められた事例はあまり見られません。

 本判決は,以下の通り,5歳4ヶ月時点で知能指数が153(8歳2ヶ月相当)あったことや,入学が予定されていた小学校の卒業者がほぼ例外なく大学に進学しているという状況を総合考慮して,6歳男児について大卒労働者の平均賃金を基礎収入として認定しました。

  1. 5歳4ヶ月の段階で知能指数153の評価を受けていた。
  2. 入学予定の小学校の卒業生の進学先に関する同小学校の追跡調査の結果、同小学校が把握している範囲では、同小学校に昭和四五年に入学して昭和五一年に卒業した25名のうち24名(医学部に進学して医師になった者は9名である。)。昭和五〇年に入学して昭和五六年に卒業した卒業生32名のうち25名(医学部に進学した者は2名である。)が、海外留学を含め、それぞれ大学に進学しているなど、ほぼ例外なく大学に進学している。

 本判決は,幼児について大卒労働者の平均賃金が基礎収入として認定された事例の一つとして参考になると思われます。

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