家事従事者(専業主婦・兼業主婦等)の逸失利益とは
専業主婦や兼業主婦は、交通事故の実務上は「家事従事者」と言います。
【家事従事者の逸失利益】
=【基礎収入※】×【労働能力喪失率】×【労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数】
※原則:全年齢平均賃金を基礎収入とする。
例外:パート収入等がある兼業主婦の場合、実際の収入額と全年齢平均賃金のいずれか高いほうを基礎収入として休業損害を計算するのが一般的
家事従事者の基礎収入
専業主婦や兼業主婦などの家事従事者の場合、基礎収入は原則として「全年齢平均賃金(女性労働者・学歴計・全年齢平均賃金額」)」をもとに算定されます。パート収入がある兼業主婦の場合は、通常は、パートなどで得た実際の収入額と全年齢平均賃金を比べて、どちらか高額な方を基礎収入として、休業損害を計算します。
家事従事者の逸失利益
専業主婦の場合
専業主婦が交通事故にあい、後遺症が残った場合、実務上は、原則として、「全年齢平均賃金額」(「女性労働者・学歴計・全年齢平均賃金額」)に基づいて基礎収入を算定すると考えられています。 家事従事者が女性ではなく、男性の場合(専業主夫)の場合も、女性労働者をベースとした全年齢平均賃金額をもとにすべきとされています。
専業主婦の場合は、サラリーマンなどの給与所得者と異なって実際の収入がないため、逸失利益を認めることに疑問を持たれる方もいるかもしれませんが、実際に家事労働をしているにもかかわらず、実収入がないから逸失利益を認めないとするのは、専業主婦にあまりに酷であり公平を失すると考えられるため、家事労働も、有職者の労働と同様に評価すべきこととされています。
但し、どんな場合でも「全年齢平均賃金額」をもとに算定すると、体が悪くて働けないために専業主婦をしているような人でも、実際に働いている有職者とほぼ同程度の逸失利益が認められることになり、かえって有利になります。そこで、実務上は、生涯を通じて「全年齢平均賃金額」に相当するような家事労働を行うことができる蓋然性が認められないような場合には、「全年齢平均賃金」から、一定額を減額すべきと考えられています。
また、被害者が一人暮らしの場合には、家事が金銭的な価値を有する、他人のための労働ではないことから、逸失利益が認められないようにも思えます。しかし、そもそも年金生活者を除けば「一人暮らしの家事従事者」は、無職者として考えることができるため、逸失利益についても、無職者と同様の算定を行うことは可能です。つまり、労働能力と労働意欲があり、将来は就労の蓋然性が認められるならば、失業前に得ていた実収入や、平均賃金を参考に基礎収入を算定した上で、逸失利益が認められる可能性があります。
なお、「女性労働者・学歴計・全年齢平均賃金額」は、平成29年賃金センサスによると382万6,300円、平成30年は388万円とされています。このように、賃金センサスはその年によって変動するので、年ごとに確認されるとよいでしょう。
兼業主婦の逸失利益
家事従事者がパート等で実際の収入を得ている場合、実務上は「実収入額」が「全年齢平均賃金額」を上回っているときには、「実収入額」を基礎収入として逸失利益を算定すべきと考えられています。逆に、「実収入」が「全年齢平均賃金額」を下回っている場合には、専業主婦の場合と同様に、「全年齢平均賃金額」を基礎収入として逸失利益を算定すべきと考えられています。