自転車の右側通行の事情は、過失割合の判断においてどの程度考慮されるのでしょうか?

自転車の右側通行に関する法規制

 自転車も軽車両として道路交通法の適用を受けるところ,「車両は、道路の中央から左の部分を通行しなければならない(同法17条4項)」「車両は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、自動車及び原動機付自転車にあつては道路の左側に寄つて、軽車両にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならない(18条1項)」の定めがあり,自転車の右側通行が禁止されています。

 さらに,2013年12月1日の道路交通法の改正により,自転車が道路の右側にある路側帯を走ることが禁止されました。道路交通法17条の2には「軽車両は、前条第一項の規定にかかわらず、著しく歩行者の通行を妨げることとなる場合を除き、道路の左側部分に設けられた路側帯を通行することができる。」との定めがあり,路側帯の通行が道路の左側に限定されていることが明記されています。

 改正法が路側帯における自転車の走行を左側に限定した理由は,出合い頭による事故を防ぐためだとされています。

 道路交通法17条4項違反については,3カ月以下の懲役又は5万円以下の罰金が法定刑として定められています(道路交通法119条1項2号の2)。

 今でも街中で自転車が道路の右側を通行しているのを見かけることは少なくありませんが,このような行為は刑事罰の対象となっています。

自転車の右側通行の事情の考慮

 過失割合の判断については,実務上,別冊判例タイムズ「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(以下,「別冊判タ」といいます)に記載された基準が参照されています。

 検討の流れとしては,まずは,問題となっている交通事故が別冊判タに掲載された基準のどの類型に近いかを調べます。

 別冊判タに記載のある事故状況である場合,当該基準の基本割合をもとに,修正要素の有無を検討することになります。認定基準にない事故類型の場合,掲載されている近い類型の基準の過失割合を参考に修正を加えるという考え方が取られています。近い類型の基準すら掲載されていない非典型事故の場合には,類似の事故態様の裁判例における判断を参考にしながら過失割合を検討することになります。

 修正要素には,別冊判タの各基準毎に明記されているものもあれば(例えば,信号機により交通整理が行われていない交差点において,対抗右折車と直進車が衝突した類型の基準114では,対抗右折車の早回り右折や大回り右折の事情が直進車の-5%の修正要素として明記されています),問題となっている交通事故の状況から,著しい過失や重過失に該当するかを個別に検討する必要があるものもあります。

 そして,別冊判タ全訂第5版59頁や133頁には,自転車の著しい過失の例として,「右側通行」が挙げられており,自転車の著しい過失の修正要素として考慮することになります。

 もっとも,右側通行がどのような場合でも著しい過失に該当するわけではありません。

 自転車の右側通行が問題となるのは,自転車が右側通行をしたときに,相手方から見て自転車が左方から交差点に進入している場合には,自転車の右側通行が事故の回避を困難にさせるからです。

 したがって,自転車の右側通行は,事故の相手方から見て自転車が左方から交差点に進入している場合のみ,著しい過失として考慮されることになります(2013年12月1日改正道路交通法施行後については,路側帯の右側通行も道路の右側通行と同様に扱うことになります)。

 なお,自転車の著しい過失がどの程度の影響するかについては,基準により著しい過失の評価に5%~10%の幅があるため,各基準に問題となっている交通事故を当てはめた後に判断することになります。

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