好意同乗とは?
知人や友人らの運転する車に乗っている際に電柱や壁にぶつかるなどの事故になって怪我をした場合,その怪我は知人や友人らの過失による事故から生じた損害だとして,知人や友人らが加入する損害保険会社が交渉の相手方になるのが一般的です。
知人や友人らの好意によって無償で車に乗せてもらって利益を得ていたのだから,損害額全部を運転者に請求するのはおかしい,したがって,賠償金を減額するというのが好意同乗の理論です。
数十年前は,無償ないし好意で同乗していた者については,信義則や公平の観点から損害額を減額するという裁判例も見られました。
しかし,ただ単に好意同乗しただけでは原則として減額は認められないとするのが,近年における学説や裁判例での一般的な考え方です。
例えば,東京地判平成7年12月27日交通事故民事裁判例集28巻6号1884頁では,裁判外の関係人の損害を算定するにあたり,無謀運転の誘発などの帰責事由がないので好意同乗者として損害額を減額することは相当でないと指摘されています。
東京地判平成7年12月27日交通事故民事裁判例集28巻6号1884頁
訴外◯は、無償で被告△の運転する被告車に自発的に乗車し、その結果本件事故に遭ったことが認められるが、訴外◯が、本件事故に繋がるような無謀な運転を誘発したり、容認するなど、訴外◯に帰責事由は認められないので、本件では、好意同乗者として損害額を減殺することは相当ではない。
好意同乗で減額される場合
単に「無償」ないし「好意」で同乗していたというだけでは,好意同乗減額は認められていませんが,好意同乗者に帰責性がある場合には,減額が認められることがあります。
同乗者の帰責性については,大きく分けて以下の3つに分類されています。
①同乗者が危険の増大に関与した場合(危険関与・増幅型)
同乗者が運転の邪魔をしたり,スピード違反を煽るなど,危険に関与・増幅させた場合がこれにあたります。
②同乗者が危険を承知で乗り込んだ場合(危険承知型)
同乗者が運転者の無免許や飲酒運転,車両の整備不良,悪い天候状況など,事前に事故発生の危険を承知で同乗した場合がこれにあたります。
③同乗者が共同運行者となるような場合(運行供用者型)
自分の車を一時的に他人に運転させていた場合などがこれにあたります。
同乗者の帰責性から好意同乗減額が認められた事例として,名古屋地判平成20年1月29日交通事故民事裁判例集41巻1号114頁があります。
名古屋地判では,飲酒運転を承知していたこと等,主に②危険承知型の類型にしたがった事実が指摘され,最終的に2割の減額となりました。
なお,好意同乗減額の割合については,上記名古屋地判も含め,多くは1割~3割程度の範囲に留まっているようです。
名古屋地判平成20年1月29日交通事故民事裁判例集41巻1号114頁
(3) 以上の事実を前提として,原告らの損害減額の可否について検討する。
ア 認定した事実によれば,原告は被告と一緒に酒を飲む目的で被告が運転する加害車両に同乗して居酒屋に向かっており当初から被告が飲酒運転をすることを容認していたと認められる上,被告が居酒屋で生ビール1杯,焼酎ロック2杯という少なくない量の飲酒をしたのを承知で加害車両に同乗している。被告は制限速度を約40キロメートル超過する速度で加害車両を運転し,車線変更に際しハンドル操作を誤って本件事故を生じさせたのであり,本件事故の発生には被告の飲酒が少なからず影響を与えていたとみるべきであるから,損害の算定にあたっては,損害の公平な分担の観点から,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,原告らの損害額を減額するのが相当である。
イ また,原告は,本件事故による衝撃で頸髄損傷,第3,第4頸椎脱臼骨折の傷害を負ったが,シートベルトを着用していた被告の傷害が頭部打撲,挫創にとどまったことからすると,助手席側屋根が凹損しているという加害車両の損傷態様を考慮しても,シートベルトの不着用が損害の拡大に一定程度寄与したものと考えられるから,前記と同様,損害の公平な分担の観点から,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,原告らの損害額を減額するのが相当である。
ウ そこで,減額の割合を検討するに,飲酒運転でカラオケに行くことを被告の方から誘ったこと,加害車両は助手席側屋根が凹損しており,被告に比して重篤な原告の傷害は乗車位置によるところも大きいと認められ,シートベルトの不着用が損害拡大に寄与した程度が大きいとはいえないことなどを考慮し,原告らの損害額から2割を控除するのが相当である。
まとめ
好意同乗での減額は,同乗者に帰責性がある場合のみ認められるのが一般的で,単に無償ないし好意で友人の車に乗っただけでは,減額事由としては認められません。
保険会社は同乗者に帰責性が無い場合でも,好意同乗減額を主張して来ることがよくありますので,注意が必要です。
したがって,本件のケースでは,同乗者に帰責性がないにもかかわらず,保険会社が好意同乗減額を主張してきたならば不当だといえます。
一方,同乗者に前述のような帰責性がある場合には,保険会社の好意同乗減額の主張にも理由があるということになります。