休業損害の計算方法(サラリーマン・自営業者・主婦)

交通事故で傷害を負い、入院や通院等で休業せざるを得なくなって収入が減ってしまった時はどうすればいいのでしょうか。

治療しても症状が良くも悪くもならない時期(この時期のことを「症状固定」といいます)までの治療費や通院費は加害者側に請求することができますが、同様に症状固定までの期間で休業したことによって減少した収入についても「休業損害」として請求可能です。この休業損害の計算方法は被害者の立場によって異なります。

ここでは、休業損害の計算方法について、わかりやすく解説します。

休業損害とは

休業損害とは、交通事故での負傷により仕事ができなくなり減少した収入を損害として評価したものをいいます。

完治すればその期間まで、障害が残ってしまった場合は症状固定日までが休業損害の算定対象となる期間です。

障害が残ったことが原因で症状固定日以降に収入が減少する場合は、後遺障害逸失利益という別の損害項目で評価されます。

休業損害の計算方法

裁判所の基準と自賠責保険の基準では、休業損害の計算方法が異なっています。

裁判所基準

裁判所で用いられている基準です。弁護士が保険会社と示談交渉を行う場合にも、訴訟手続きへの移行可能性があることを前提としてこの基準が用いられています。

計算式は以下の通りです。

  • 1日当たりの基礎収入額×休業日数

休業日数とは、事故による傷害が原因で休業する必要があると認められる日数のことです。

また、事故が原因の休業の際に有給休暇を取得したことで減収が生じなかった場合でも、減収が生じなかったのは被害者の不本意な有給休暇の取得という犠牲によるものですので、有給休暇取得日も休業日数として含めて休業損害を計算するという実務が確立しています。

しかし、傷害の内容や治療経過等を踏まえて休業の必要性が判断されるため、実際に休んだ日がそのまま休業日数として認定されるわけではないことには注意が必要です。

基礎収入額について、被害者の立場別に解説します。

給与所得者

給与所得者の日額基礎収入は、事故前3ヶ月の給与の合計額を90日で割って計算するのが保険会社における一般的な実務です。

しかし、継続しての完全休業ではなく就労しながら一定頻度で通院を行っている場合で、事故前の具体的な稼働日数・支払いを受けた給与の金額を証拠上認定できる場合には、休日を含まない実労働日1日あたりの平均額を基礎収入とする方法が相当だとされています(武富一晃裁判官の講演録「給与所得者の休業損害を算定する上での問題点(赤い本平成30年度版下巻)」38~39頁)

また、休業によって賞与の減額・不支給が生じたり、昇給や昇格に支障が出た場合、休業がなかった場合との差額が損害として認められます。

自営業者

自営業者の休業損害については、通常、「事故前年の(申告所得額+固定経費)÷365日×休業日数」で計算されます。家賃や従業員の給与、損害保険料その他の固定経費の支出は、事業の維持や存続のために必要やむを得ないものとして扱われるので、損害として認められています。

被害者の妻などの親族が事業を手伝っているような場合には、被害者自身の寄与分のみを基礎収入として休業損害を算定する必要があることには注意が必要です。

また、自営業者については、過少申告等により、申告所得を超える実収入を主張して争われるケースが少なくありませんが、裁判所では厳格な立証が求められているため、ほとんど認められていないのが実情です。

確定申告をしていない場合、申告所得を超える実収入がある場合、固定経費として認められる範囲等、自営業者の基礎収入の認定に関しては、いくつもの論点が存在しています。

基礎収入をいくらとするかは、休業損害額算定における重要なポイントですので、交通事故に力を入れている弁護士等に相談するほうがいいでしょう。

会社役員

会社役員の報酬には、純粋な役員報酬である利益配当部分と、会社の従業員として働いている対価に対する給与である労務対価部分の、2つの性質の報酬が含まれていると考えられています。

しかし、休業損害の対象となる「基礎収入」にあたるとされるのは、従業員としての労務対価部分のみになり、原則として利益配当部分は除外されます。

また、休業していても役員報酬が減額されていなければ、損害が発生していませんので休業損害を請求することはできません。

家事従事者

他人のための家事を行っている場合(一人暮らしで自分のために家事を行っている場合は対象外です)、家事従事者として休業損害が認められる可能性があります。

専業主婦(主夫)については、女性全年齢平均賃金を基礎収入として休業損害が算定されるのが一般的ですが、高齢者の場合は、年齢別平均賃金や、さらに年齢別から一定割合を減額した金額が用いられることがあるのが実務の運用です。

また、兼業の主婦(主夫)については、現実の収入額と女性全年齢平均賃金のいずれか高い方を基礎収入として休業損害が算定されます。

休業の範囲について裁判所の画一的な算定基準はなく、実通院日数に応じて認定する方法や、回復状況に応じて休業率を逓減(最初の1ヶ月は100%、次の2ヶ月は50%、残り3ヶ月は25%等)して認定する方法など、実務で用いられている計算方法は様々です。

1 基礎収入×休業日数(実入院及び実通院日数)
 保険会社が採用することが多い計算方法です。
 しかし、家事の支障は通院日に関係なく、症状固定時期までの全部の期間について生じていると考えられることから、多くの裁判例では次の2の計算方法が採用されています。

2 割合的認定
例えば、家事の支障割合が事故後1カ月は入院中のため100%、退院後2カ月は50%、次の3カ月は25%の場合、休業損害の計算は以下のようになります(事案ごとに期間・割合は異なります)。

(基礎収入×30日×100%)+(基礎収入×60日×50%)+(基礎収入×90日×25%)

自賠責基準

自動車の所有者に強制加入が義務付けられている自賠責保険の基準です。
計算式は以下の通りです。

6100円(令和2年4月1日以降に発生する事故に適用する基準。平成22年4月1日以降令和2年3月31日までに発生した事故については5700円)×休業日数

この金額以上の収入減少を証明することができれば、1日当たり19000円を限度として、実額が支払われます。

ただし、自賠責保険から支払われる傷害事故に関しての保険金総額(他の治療費や入通院慰謝料を含む)の上限が120万円となっている点には注意が必要です(自賠責保険から120万円を超える額は支払われません)。

まとめ

自賠責保険の基準と裁判所の基準では、計算方法の違いによって休業損害額が大きく異なってきますし、裁判所の基準に従って自営業者や家事従事者の休業損害を適切に計算するためには専門的な知識が必要です。

交通事故に注力している弁護士であれば、休業損害を適切に請求することが可能です。
休業損害の計算方法について疑問がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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