有給休暇を取得したので減収はないのですが、休業損害は認められるのでしょうか?

有給休暇取得と休業損害

 事故に遭わずに働いていたならば得られたはずの収入との差額が休業損害ですので,有給休暇を取得し,実際には減収がなかった場合の取扱いが問題となります。

 この点,たとえ減収がなかったとしても,被害者の不本意な有給休暇の取得という犠牲によるものですので,なんらかの損害が発生していると考えることには争いがありません。

 損害算定方法としては,①有給休暇手当の支給を無視して休業損害を算定する方法,②手当相当額の財産的損害が発生したとして算定する方法,③慰謝料斟酌事由として考慮する方法などがありますが,実務では①の考え方が一般的です。

 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準にも「現実の収入減がなくても,有給休暇を使用した場合は休業損害として認められる」との記載があり,休業損害証明書にも年次有給休暇の取得日数を記入する欄があります。

有給休暇取得と事故との間に相当因果関係がない場合

 有給休暇取得が休業損害として認められるためには,有給休暇取得と事故との間に相当因果関係があることが必要です。

 例えば,旅行のため有給休暇取得申請済みであった場合,事故後に有給休暇を取得して旅行にいっても,事故と関係のある損害とはいえません。

 裁判例では,会社都合で解雇が決まった後に,解雇までの期間について有給休暇の消化のために取得した事例において,事故による損害とは認められなかった事例(東京地判平成22年3月9日交通事故民事裁判例集41巻5号1210頁)があります。

東京地判平成22年3月9日(平成21年(ワ)第9678号、平成21年(ワ)第23761号)


被告は、勤務していた◯を会社都合により解雇されたのであって、解雇は本件事故による受傷が原因であるとは認められない。したがって、解雇の日である平成18年10月6日から相当期間については、収入がなかったとしても、本件事故が原因であるとは認められない。解雇の日以前には、前記のとおり給与は支払われていたから、損害はない。同月2日から同月6日までの有給休暇取得は、解雇が決まり、有給休暇消化のために取得したものであって、本件事故が原因で取得したものではないから、有給休暇取得を本件事故による損害とみることもできない。


将来の有給休暇請求権の喪失

 実際に有給休暇を使用した場合だけでなく,事故による欠勤のために,将来得られたであろう年次有給休暇を得られなかった場合の損害も問題となります。

 裁判例では,有給休暇はそれ自体財産的価値を有するものだとして,使用の蓋然性を問題にせず,欠勤によって得られなかった20日分の有給休暇カット分の損害を認めた事例(東京地判平成16年8月25日自保ジャーナル1603号9頁)などがあります。

東京地判平成16年8月25日自保ジャーナル1603号9頁


(2)被告らの主張
ア 休業損害について

(イ)平成13年有給(20日)カット分について
 原告の主張によっても,平成12年度に原告が本件事故により欠勤早退遅刻をしたのは37日であり,前労働日の20%を超えておらず,本件事故による休業のみのために,新たな有給休暇の付与を受けられなかったのではない。原告は,既に,平成12年4月1日から同年10月8日までの間に26日欠勤しており,これが,新たな有給休暇を取得できなかった大きな要因である。
 また,原告は,本件事故前,有給休暇の全日数を使用してはいなかったはずである。有給休暇は,実際にこれを行使して初めて金銭的に評価できるのであり,これを使用したであろう蓋然性がなければ(使用しなかった有給休暇日数について勤務先が買い上げているというような事情があれば別であるが),取得し得なかった有給休暇全部について,原告の算出するような計算で損害額を算出すべきではない。

第3 判断

ウ 平成13年度有給(20日)カット分      27万7672円
 関係各証拠(甲7,8,20)によって認める。
 原告は,取得した有給休暇を必ずしも全部費消してはいなかったようであるが(原告本人),有給休暇はそれ自体財産的価値を有するものと解するのが相当である。


 

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