自営業者の休業損害
自営業者(事業所得者、個人事業主)の休業損害は、事故前年の確定申告所得額を基礎に算出されるのが通常で、給与所得者と同様に、事故の受傷を原因とする休業によって現実に生じた減収額が損害として認められることになります。
具体的には、白色申告については、収支内訳書の売上(収入)金額から、売上原価・経費・専従者控除を差し引いた後の所得金額(純収入)を基礎収入とし、青色申告については、損益計算書の売上(収入)金額から、売上原価・経費・専従者給与を差し引いた後の所得金額(純収入)を基礎収入とします。経費性の無い青色申告特別控除額や貸倒引当金は売上(収入)から差し引きません。
事故前と事故後の確定申告書の控えや帳簿などから、基礎収入や減収額を認定することになります。自営業の場合、特に年毎の所得変動が大きい職種もあることから、事故前3年分程度の確定申告書から平均的な所得を割り出して基礎収入とする場合もあります。
また、税金対策として申告所得額を低くして確定申告をしているような場合であっても、原則として申告所得額を基礎として算定されます。
申告所得額を上回る実収入額があったことを証明することができれば、それを基礎収入として認定してもらえる可能性はありますが、税金の支払いを少なくしようと過少申告しながら、損害賠償請求の際にはより多い所得を主張することが自己矛盾として裁判官の心証を悪くする可能性が高いことから、実際に認めてもらうのは難しいのが実情です。
また、自営業者の家族等が事業を手伝っているようなケースでは、被害者の寄与分のみが基礎収入となることには注意が必要です。
損害の範囲
休業中に支払わなければならなかった費用の内、家賃や従業員の給与、損害保険料その他の固定経費の支出は、事業の維持や存続のために必要やむを得ないものとして扱われるので、損害として認められます。
また、被害者である従業員が休業したために、事業主が、代わりに従業員を雇った場合に支払った給与や外注費なども、損害として認められる場合があります。これは、収入が減るのを防ぐ代わりに、労働力確保のための費用が発生したという関係にあるためです。
さらに、休業のために捨てざるを得なかった食材費や、事業を再開するにあたって必要となった広告宣伝費なども、相当因果関係あると認められる範囲内では、損害として賠償の対象となりえます。