収入の変動が激しいのですが、休業損害はどのように算定されるのでしょうか?

収入の変動が大きい場合の基礎収入の算定

 休業損害の基礎収入は,給与所得者であれば事故前3ヶ月の収入から,事業所得者であれば事故前年度所得から算定されるのが一般的です。

 しかし,収入の変動が激しい者については,上記の算定方法を取ることが必ずしも適切とはいえません。

 個人事業主等で収入に相当な変動がある場合については,事故前数年分の平均収入から基礎収入が算定された裁判例があります。

事故前58ヶ月間の平均収入から基礎収入が算定された事例

 大阪地判平成24年5月17日交通事故民事裁判例集45巻3号649頁は,年度による年収の変動が大きい歯科医院を経営する歯科医師について基礎収入の額が争われた事例ですが,合計58ヶ月間の収入から平均収入額(年額)を算定して基礎収入とし,さらに歯科医院の営業を継続していることから,休業損害については当該基礎収入をもとに算定した額の60%の限度で認めました。

大阪地判平成24年5月17日交通事故民事裁判例集45巻3号649頁


 原告の収入金額は,年度による増減が大きいものであることを考慮すれば,その休業損害を算定するに当たり,基礎収入は,平成16年度のもののみではなく,それ以前の収入金額も基礎とするのが相当であるから,原告の主位的主張は採用することはできない。

 しかし,原告の収入金額は,年度による増減が大きいものであることを考慮すれば,当該算定方法をとることは相当ではない。

 以上より,原告の平成12年度ないし平成14年度,平成16年度,平成17年度の1月ないし10月までの58か月間の収入から,原告の平均収入額(年額)を算定すると,972万2386円となるから,同金額を原告の基礎収入とするべきである(1円未満切捨て。以下同じ。)。
(1798万0471円+342万7956円+968万3611円+1286万2862円+303万6636円)÷58×12=972万2386円

エ 原告の休業損害の算定について
 原告は,基礎収入と,休業期間中の原告の実収入との差額が原告の休業損害に該当する旨主張する。しかし,原告の収入金額は年度による増減が大きいものであることを考慮すれば,基礎収入と実収入との差額が原告が休業した事実を反映したものであるとは認めがたいから,採用することはできない。
 そこで,原告の休業損害は,上記基礎収入に対する相当な休業の程度から算定するのが相当である。
 そして,上記期間中も,原告は,歯科医院の営業を継続しており,原告自身は歯科医師としての治療行為は行っていないものの,領収証発行業務や,材料の請求・支払に関する事務処理,患者に対する相談業務,代診の歯科医師に対する検査の指示や治療方針への助言,患者への説明,治療後のチェックという作業は行っていたことにかんがみ,原告の休業損害は,上記の休業期間を平均して,基礎収入に対して60パーセントの限度で認めるのが相当である。
 これを算定すると,原告の休業損害は,1075万5888円となる。
 972万2386円÷365日×673日×0.6=1075万5888円


季節変動がある場合

 季節によって収入が大きく変動する業種の場合には,前年の同時期の収入を参照するのが一般的な考え方です。

 例えば,温泉地の観光業は,冬に収入が多く夏は少ないなど季節によって収入の変動が大きい業種と言えます。

 このような場合,事故前3ヶ月の収入や事故前年度所得をもとに休業損害の基礎収入とするのは相当ではなく,前年や前々年度等の同時期の収入から基礎収入を算定すべきだと考えられます。

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