傘差し運転に関する法規制
自転車の傘さし運転は,道路交通法の遵守事項として明記されているわけではありません。
しかし,道路交通法71条の6号は,「前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」を運転者の遵守事項として挙げ,各都道府県の道路交通法施行細則において,傘を差しての車両等の運転をしないこと等が遵守事項として規定されています。道路交通法71条6号違反については,5万円以下の罰金が法定刑として定められています(道路交通法120条1項9号)。
また,道路交通法70条は,安全運転の義務として,「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」と規定していますが,危険性の程度によっては,傘さし運転が同法違反となる場合もあります。道路交通法70条違反については,3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金が法定刑として定められています(道路交通法119条1項9号)。
傘差し運転の事情の考慮
過失割合の判断については,実務上,別冊判例タイムズ「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(以下,「別冊判タ」といいます)に記載された基準が参照されています。
検討の流れとしては,まずは,問題となっている交通事故が別冊判タに掲載された基準のどの類型に近いかを調べます。
別冊判タに記載のある事故状況である場合,当該基準の基本割合をもとに,修正要素の有無を検討することになります。認定基準にない事故類型の場合,掲載されている近い類型の基準の過失割合を参考に修正を加えるという考え方が取られています。近い類型の基準すら掲載されていない非典型事故の場合には,類似の事故態様の裁判例における判断を参考にしながら過失割合を検討することになります。
修正要素には,別冊判タの各基準毎に明記されているものもあれば(例えば,信号機により交通整理が行われていない交差点において,対抗右折車と直進車が衝突した類型の基準114では,対抗右折車の早回り右折や大回り右折の事情が直進車の-5%の修正要素として明記されています),問題となっている交通事故の状況から,著しい過失や重過失に該当するかを個別に検討する必要があるものもあります。
そして,別冊判タ全訂第5版59頁,133頁,388頁には,自転車の著しい過失の例として,「傘をさすなどしてされた片手運転」が挙げられていますので,自転車の著しい過失の修正要素として考慮することになります。
ただし,自転車の著しい過失がどの程度の影響するかについては,基準により著しい過失の評価に5%~10%の幅があるため,各基準に問題となっている交通事故を当てはめた後に判断することになります。