脾臓の喪失で後遺障害等級が認定されたのですが、逸失利益は認められるのでしょうか?

脾臓喪失の後遺障害

 脾臓は,人体の左の上腹部にある循環器系内に組み込まれた臓器のことをいいます。

 脾臓の喪失については,平成18年1月25日付厚生労働基準局長通達(基発0125002号)による労災制度における認定の取扱いの変更に合わせて,平成18年3月31日までに発生した事故については8級11号が認定されていましたが,平成18年4月1日以降に発生した事故については,「胸腹部臓器の機能に障害を残すもの」として,13級11号が認定されることとなりました。

脾臓喪失による労働能力の喪失

 脾臓の喪失は,脾臓を取り除いても,骨髄,肝臓,リンパ節が代償し,人体に影響がないといわれていることから,加害者(保険会社)から労働能力喪失が争われやすい後遺障害の一つです。

 平成16年の片岡武裁判官の講演録「労働能力喪失率の認定について(交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ353頁)」では裁判例が分析されていますが,それによると,26の裁判例のうち,5つで労働能力喪失が否定され,5つで8級45%の労働能力喪失率がそのまま認定され,16で45%未満の労働能力喪失率(40%(2つ),35%(1つ),30%(3つ),25%(3つ),20%(3つ),15%(4つ))が認定されていると指摘されています。

 等級変更前には,上記裁判例の傾向を踏まえ「労働能力喪失率は,被害者の年齢,生活状況,減収の有無及びその程度,職業の内容,脾臓の摘出が当該職業遂行に際して及ぼす影響等の初版の事情を勘案」し,「おおよそ20%~40%あたりが目安となる」と指摘されていました(同講演録353頁)。

 一方,等級変更後は13級11号になり,その労働能力喪失率は9%と等級変更前の労働能力喪失率の認定水準を下回っています。

 また,労災制度の認定の取扱い変更においては,「胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会報告書」が参照されていますが,同報告書第II 腹部臓器の障害(87~88頁)によれば,「脾臓を亡失した場合においても特に症状として現れないので、脾臓の亡失により職種制限や業務の制限が生じるものではないことはもちろん、「機能の障害の存在が明確であって労働に支障を来すもの」(第 11 級の 9)にも及ばないことは明らかである」としながらも,「脾臓の亡失については、免疫機能を一定程度低下させ感染症に罹患する危険性を増加させることはあり得る」という指摘もあり,13級が適当だと結論づけられています。

 したがって,13級9%の労働能力喪失率が等級変更前の労働能力喪失率の認定水準を下回っているほか,脾臓の喪失により職種制限や業務の制限が生じるものではない等の事情は等級変更後の評価に織り込み済みだといえますので,私見ですが,一般的には13級9%の等級表どおりの喪失率が認定されるべきではないでしょうか。

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