欠勤で昇給が遅れたことによる減収は損害として認められるのでしょうか?

昇給遅延の損害

 事故による受傷が原因で欠勤を余儀なくされ,昇給や昇進(昇格)に影響が及ぶ場合があります。

 事故のせいで欠勤し,それにより昇給や昇進が遅延して減収となった場合,当該減収は事故と相当因果関係のある損害として認められます。

 なお,昇給遅延の損害を逸失利益と休業損害のいずれの損害項目で認定するかについては,裁判例で判断が分かれています。

 46歳の消防士の事例(名古屋地判平成15年2月28日交通事故民事裁判例集36巻1号279頁)では,昇給延伸による減額が定年まで続くとして,逸失利益として60歳まで42万962円が認められました。

 一方,32歳会社員の事例(横浜地判平成9年10月30日自保ジャーナル1238号2頁)では,昇給の遅れが解消されるには5年間を要するとして,休業損害として月2万円5年分に相当する120万円が認められています。

名古屋地判平成15年2月28日交通事故民事裁判例集36巻1号279頁


 5 逸失利益 金四二万〇六九二円
 (一) 前記3に判示した事実関係、掲記した各証拠及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、前記のとおり職務専念義務免除を受けたため、九か月の昇給延伸を受けており、今後良好な成績で勤務したときは三か月の昇給短縮を得る可能性もあるが、それでも六か月の昇給延伸が残り、これは定年まで続くものと推認される。したがって、この昇給延伸による減額は、控え目にみても、平成一一年一〇月一日以降六〇歳の定年時までの間、別紙「昇給延伸による給与等差額計算書」記載のとおりとなり、反訴原告主張のとおり中間利息を控除して算定すると、四二万〇六九二円となる。


横浜地判平成9年10月30日自保ジャーナル1238号2頁


五 休業損害(原告の請求 二四〇万円)
 一般に、欠勤のために昇給・昇格の遅延による減収があった場合は、右減収額は休業損害となると解する。
 証拠によると、原告は、平成四年四月時において二万円の昇給が行われるはずであったところ、本件事故による長期欠勤のため現状据え置きとされたこと、他の同僚と比較して給与面で差が生じていること、据え置かれた昇給を回復する処置は未だとられていないが、賞与は増加しており、年収としては減額にはなっていないことが認められる。
 右の事実によると、原告は、本件事故により昇給が行われなかったことによる減収があり、現在のところ昇給の遅れは解消されていないが、右解消に一〇年間を要することを認めるに足りる証拠はなく、昇給の遅れが解消されるには五年間を要するものと認めるのが相当である。
 したがって、休業損害として、月二万円の五年分に相当する一二〇万円を損害と認める。


立証上の問題等

 実務的に問題となるのは,「欠勤による昇給・昇進の遅延による減収」があったことの立証のハードルです。

 公務員や一部大企業のように昇給・昇格などに関する規定が整備されていれば,欠勤と昇給・昇進との関係を証明しやすいと思われますが,中小企業や個人商店の従業員など昇給・昇進規定が整備されていない場合には,昇給・昇進の遅れが事故と因果関係があるとの証明は相当に難しいと思われます。

 その他,昇級遅延の影響による減収がいつまで続くのかは明確でないため,昇進遅延による損害がいつまでの期間について認められるかという問題があります。

 名古屋地判の46歳の消防士の事例では定年(60歳)まで昇給遅延の損害が認められましたが,横浜地判の32歳会社員の事例では,昇給の遅れの「解消に一〇年間を要することを認めるに足りる証拠はな」いとして,5年間に限って昇給遅延の損害が認められています。

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