損害賠償を請求する期限はありますか?

損害賠償請求権の時効

 損害賠償を請求する権利(損害賠償請求権)については,法律で決められた期間内に権利を行使しなければ,その権利は時効により消滅し(消滅時効),被害者はその損害を回復することができなくなります。
消滅時効が問題となるのは,①加害者に対する損害賠償請求権や②自賠責保険の保険金請求権が考えられます。

① 加害者に対する損害賠償請求

 2020年3月31日までに発生した事故については,交通事故の損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年で,消滅時効にかかります(旧民法724条)。時効がいつからスタートするかという,時効の起算点については,「損害を知った時」が具体的にいつかが特に問題になりますが,基本的には以下の通りとなります。
 また,旧民法724条には消滅時効とは別に除斥期間の定めがあり,「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った」かどうか等にかかわらず,事故の日から20年経過すると,損害賠償請求はできなくなります。

 これに対し,2020年4月1日に施行された改正民法では,不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効を原則3年としつつ,人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求の短期消滅時効5年としました。

 これにより,人損の損害賠償請求権の時効期間については,3年から5年に伸びたことになります。一方,物損事故については,旧民法と同じ3年で変更はありません。

 また,改正民法では,不法行為のとき(事故時)から20年で時効により消滅することになることが明記されました。従来は判例法理により除斥期間と考えられていましたが,改正により,旧民法でいう時効の中断・停止といった制度が適用されるようになるほか,信義則,権利濫用といった時効に関する理論の適用も期待できるようになります。

 そして,人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求については,改正民法施行時の2020年4月1日時点において消滅時効が完成していない場合には,改正民法が適用される経過措置が取られており(施行附則35条2項),その結果,時効期間が3年から5年に延長される場合があります。

 詳しくは,コラム「改正民法の解説② 時効制度の改正」を参照下さい。

2020年3月31日以前に発生した交通事故
死亡による損害 死亡日から3年
傷害による損害 症状固定日又は治癒日から3年
後遺障害による損害 症状固定日から3年
物的損害 事故日から3年
2020年4月1日以降に発生した交通事故及び2020年4月1日時点で消滅時効が完成していない人身事故
死亡による損害 死亡日から5年
傷害による損害 症状固定日又は治癒日から5年
後遺障害による損害 症状固定日から5年
物的損害 事故日から3年

 症状固定日とは,損害賠償を請求する上での概念で,「これ以上治療を続けても症状の改善が望めない状態」のこと,つまり症状が良くも悪くもならない状態のことをいいます。

 この点,傷害による損害の起算点が,事故日ではなく,症状固定日や治癒日とされているのは,特に後遺障害が残ったようなケースでは,治療が終了してからしばらくして後遺症が現れる場合があるからです。

 事故日を起算日とすると後遺障害の請求をしようとしたときには消滅時効にかかってしまうおそれがあることや,傷害分と後遺障害分を別々に請求しなければならないとすると,被害者側だけでなく加害者側や裁判所にも大きな負担となるため,傷害による損害分の請求についても時効の起算点を症状固定日として,後遺症の損害を請求できるようになってから傷害による損害と併せて請求するのが通常です。

 逆に,後遺障害が残らなかったケースでも,治療が完了するまで「治癒した」として請求することは難しいので,後遺障害が残ったケースと同様に,症状固定日(治癒日)を時効の起算点とするのが通常です。

② 自賠責保険の保険金請求

 自賠責保険では,被害者が加害者の加入している自賠責保険会社に対して被害者請求または仮渡金の請求をすることができます。自賠責保険の被害者請求には時効があり,近年の法改正で2年から3年に延長されました。しかし,3年の時効が適用されるのは平成22年4月1日以降に発生した交通事故に限られるので注意しましょう。具体的には以下のようになります。

平成22年3月31日以前に発生した交通事故
死亡による損害 事故日から2年
傷害による損害 事故日から2年
後遺障害による損害 症状固定日から2年
平成22年4月1日以降に発生した交通事故
死亡による損害 事故日から3年
傷害による損害 事故日から3年
後遺障害による損害 症状固定日から3年

時効が迫っている場合の対処法

 以下の内容は2020年3月31日までに発生した事故に適用される旧民法の制度に関する解説です。改正民法では,時効の「中断」ではなく,時効の「更新」という言葉に改められています。

 損害賠償請求の期限が迫っている場合は,まず時効を中断させることが大切です。
 時効の中断とは,それまでの時効期間の経過をゼロにすることをいいます。時効は中断したときから再びゼロから進行を始めます。時効を中断する方法は以下のような方法があります。

加害者に対する損害賠償請求権について

請求

 裁判所を通して相手方に請求をすることを言い,その行為のみで時効を中断することができます。具体的には,訴訟提起,支払督促の申立,和解の申立,調停の申立などです。但し,相手方に電話や手紙などで「払え」と要求しても,それは,事項を中断する「請求」ではなく「催告」にあたり,それだけでは時効は中断しません。

催告

 裁判所を通さず,加害者や保険会社に内容証明郵便などで,「払え」と要求することをいいます。催告をしたときから6ヶ月間は時効が完成しませんが,この間に①で説明した裁判上の請求をしないと,時効は完成します。また,一度催告をした後,6ヶ月以内に再び催告しても時効中断の効力は生じず,時効完成までの期間が延長されることもありません。

承認

 加害者または保険会社に対して時効中断の承認を求めることをいいます。通常,保険会社は,示談によって事件が解決していない場合でも,保険金や仮渡金の支払いをする場合がありますが,これは損害賠償責任や保険金支払債務の一部承認として時効中断事由となり,最後の治療費の支払をしたときから時効が進行することになりますます。

 また,示談の案として保険会社が損害額の計算書等を提示すれば,これも債務の一部承認といえ,そのときから時効期間が進行します。

自賠責保険の保険金請求権について

 自賠責保険会社に時効中断申請書を提出することで,自賠責保険金請求についても時効中断手続きを取ることができます。
 ただし,自賠責保険会社に時効中断申請書を提出していても,加害者に対する損害賠償請求権の時効は中断しないので注意する必要があります。

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