過失のある事故で車両保険を使用した場合、免責金額の扱いはどのようになるのでしょうか?

車両保険の免責金額とは?

 車両保険では,免責金額(自己負担額という表現が用いられていることもあります)をいくらに設定するかを選択することができ,それによって保険料が異なっています。

 例えば,車両保険の保険価額が100万円,免責金額が10万円で保険契約を締結し,交通事故による修理代70万円について車両保険を使用したとします。

 このとき,車両保険から支払われるのは60万円で,免責金額の10万円は支払いを受けることが出来ません。

 この支払を受けていない免責金額分については,填補されていない損害として加害者に請求することが出来ます。

過失相殺と車両保険の免責金額

 被害者にも過失がある場合,加害者に請求する免責金額部分も過失相殺することになるのでしょうか。

 人身傷害保険金については,判例(最一小判平成24年2月20日民集66巻2号742頁)は,「保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する」とし,人身傷害保険金がまず自己過失分に充当され,自己過失分を上回る部分について人傷社が代位取得することを明らかにしています。

 一方,車両保険金の保険代位については判例はありません。

 そこで,免責金額から過失相殺を行うのか,それとも人身傷害保険金と同様に,車両保険金がまず自己過失分に充当され,自己過失分を上回る部分について保険会社が代位取得することになるのかが問題となります。

 両者の考え方を具体的事例に当てはめてみますと,前述の事例で自分50:相手50の過失割合だとすると,免責金額から過失相殺を行う場合,加害者から10万円の50%である5万円の支払いを受けることが出来ます。

 一方,人身傷害保険金と同様の考え方を取りますと,車両保険金がまず自己過失分35万円に充当され,自己過失分を超える25万円について保険代位が生じます。そして,加害者が負担すべき35万円(修理代70万円の50%)のうち,保険会社が求償権を有するのは25万円分ですので,被害者は加害者から10万円全額の支払いを受けることが出来ます。

 この論点については,日弁連交通事故相談センター「損害賠償算定基準」(通称「赤い本」),日弁連交通事故相談センター「交通事故損害額算定基準」(通称「青本」),大阪地裁民事交通訴訟研究会編著「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(第3版)」のいずれにも目安となる基準や考え方の記載はありません。

 しかし,人身傷害保険と同様の考え方を採用した参考となる裁判例があります。

 大阪地判平成26年8月26日交通事故民事裁判例集47巻4号1031頁は,車両保険から支払われた修理代56万円に関し,「保険法25条に照らし,車両保険金を修理費用の原告側過失部分(33万円)にまず充当し,残額23万円について,修理費用の被告側過失部分に充当し,この部分について保険代位が生じるとするのが相当である」として,人身傷害保険金と同様に,車両保険金がまず自己過失分に充当され,自己過失分を上回る部分に保険代位が生ずると判断しました。

 同判決で原告は,車両保険金56万円と判決の認容額10万円をあわせ,修理代66万円全額を回収しています。

 車両保険では免責金額の額で保険料が異なりますが,人身傷害保険と同様に自己過失分からまず充当する考え方をとる場合,免責金額の有無で最終的な損害の填補額に違いが生じないことがあります。

 大阪地裁では,車両保険金について自己過失分を上回る部分について保険代位が生ずると判断された判決がその後いくつも出ていますので(大阪地判平成29年3月24日(平成28年(ワ)第4842号、平成28年(ワ)第9546号),大阪地判平成30年10月18日(平成30年(ワ)第82号、平成30年(ワ)第3538号)など),大阪地裁平成26年判決の扱いは,大阪地裁における一般的な運用だと思われます。

大阪地判平成26年8月26日交通事故民事裁判例集47巻4号1031頁


保険法25条に照らし,車両保険金を修理費用の原告側過失部分(33万円)にまず充当し,残額23万円について,修理費用の被告側過失部分に充当し,この部分について保険代位が生じるとするのが相当である。


 

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