リース車両のユーザーは損害賠償請求をすることができるのでしょうか?

リース契約の性質

 自動車におけるリース契約は,リース会社がユーザー(使用者)に代わって自動車を購入して一定期間賃貸し,期間終了後にユーザーが自動車をリース会社に返却する形態の契約をいいます。

 割賦販売等における所有権留保特約と異なり,リース期間終了後もユーザーに所有権は移転せず,終始リース会社が所有者であることは変わりません。

全損の場合

 全損の場合,車両の交換価値が滅失したことが損害となりますので,車両の交換価値を把握する所有者が損害賠償請求権を有することになります。

 したがって,リース車両の所有権はリース会社にありますので,リース会社が損害賠償請求権を取得し,ユーザーが損害賠償を請求することはできないと考えられます。

修理費

 ユーザーが実際に修理費を支払った場合には,所有者は実質的に修理費相当額の賠償を受けたといえますので,民法422条の賠償者の代位規定の類推適用により,ユーザーは,リース会社が加害者に対して有していた修理費相当額の損害賠償請求権を代位取得すると考えることができます(川原田貴弘裁判官の講演録「物損(所有者でない者からの損害賠償請求)について(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準2017年下巻56頁)」)。

 一方,修理未了の場合には,所有者ではないユーザーが加害者に対して車両の修理費の損害を請求できるかが問題となります。

 大阪地判平成26年11月4日(平成25年(ワ)第3974号、平成25年(ワ)第9663号)は,以下の理由から,リース契約の合理的解釈としてユーザーに修理費の損害賠償請求権を認めました。

  1. リース契約上車両の修理は使用者である被告会社において行う旨定められており,リース会社が自ら修理することは想定されていなかった
  2. ユーザーが一定の範囲で既に修理をして費用を拠出し,未だ修理のなされていない部分についても今後修理予定である
  3. 実際に修理がなされればリース会社の損害は概ね填補される
  4. リース会社側から修理費用を損害として請求するような動きは見られない

 東京地判平成21年12月25日自保ジャーナル1826号39頁でも,リース車両のユーザーが修理費の損害賠償請求権を取得することが認められていますが,こちらもユーザーが修理義務を負っていることが前提となっています。

 また,リース車両のユーザーが修理費の損害賠償請求権を取得するための要件に関し,川原田貴弘裁判官は「ユーザーが修理をする予定がない場合には,修理義務を負うというだけでは,ユーザーに具体的な修理費相当額の損害が発生したとはいえ」ないとして,ユーザーに修理義務があるだけでは足りず,実際にユーザーが車両を修理し,かつ修理費相当額を負担する予定があることが請求のために必要であると指摘しており,実務上参考になります(前掲講演録59頁)。

大阪地判平成26年11月4日(平成25年(ワ)第3974号、平成25年(ワ)第9663号)


(1) リース契約と損害の帰属について
ア 被告車両がリース車両であり,被告会社がリースの使用者として被告車両を利用していたことに争いはない。
イ そして,証拠及び弁論の全趣旨によれば,①リース契約上車両の修理は使用者である被告会社において行う旨定められており,リース会社が自ら修理することは想定されていなかったこと,②実際に被告会社は一定の範囲で既に修理をして費用を拠出し,未だ修理のなされていない部分についても今後修理予定であること等の事情が認められる。これに加え,実際に修理がなされればリース会社の損害は概ね填補されること,現時点に至るまでリース会社側から修理費用を損害として請求するような動きが見られないこと等を総合すると,車両が毀損した時の修理費用分の損害賠償請求権は使用者である被告会社に帰属すると考えるのが,被告会社とリース会社との間のリース契約の合理的解釈として相当なものと認められる。


東京地判平成21年12月25日自保ジャーナル1826号39頁


第3 当事者の主張

(1) 修理費用                   25万0488円
 ◯車はリース物件であり,名目上の所有権はリース会社にあるが,修理・保守の義務はユーザーである△が負担することになっているところ,△は,本件事故により,◯車の補修費用として25万0488円を負担した。

第4 理由

2 △の損害(甲事件請求原因)
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,◯車はリース物件であるが修理・保守はユーザーである△が負担することになっているところ,本件事故による◯車の補修費用は25万0488円であることが認められる。
 したがって,△の損害(弁護士費用を除く。)は25万0488円となる。


代車料

 代車料は,代車を使用する必要性があり,現実に代車を使用して代車料を負担したときに認められるものですので,ユーザーが使用者として請求することができると考えられます。

 東京地判平成25年8月7日(平成24年(ワ)第6583号、平成24年(ワ)第26551号、平成25年(ワ)第12076号)では,現実に代車を使用して支払い債務を負担したとして,リース車両の使用者の代車料が損害として認められています。

東京地判平成25年8月7日(平成24年(ワ)第6583号、平成24年(ワ)第26551号、平成25年(ワ)第12076号)


イ 代車費用 70万円

 これらの事実によれば,原告会社は,原告車の修理が完了する前に,代車を使用する必要から,代車の有償提供を受け,現実にこれを使用し,代車料の支払債務を負担したものであり,その支払が現実に見込まれない事情は認められないから,代車費用の相当額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
 そして,代車費用の額としては,本件事故の内容,原告車の種類,従前の使用状況,原告車の損傷状態と修理内容,代車使用の必要性の程度等を考慮し,日額2万円×35日間=70万円の限度で相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。


評価損

 評価損は交換価値の低下であり,これを把握しているのは所有者であるリース会社ですので,ユーザーが損害賠償を請求することはできないと考えられます。

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