修理の見積書に代車料の記載があるのですが、実際は代車を使用しない場合でも請求できるのでしょうか?

仮定的代車料の請求の可否

 修理代の請求については,修理が未了で今後も修理する可能性がなくても,車両の損害は既に発生しているとして,修理費相当額の損害が認められています(Q修理する予定がなくても、修理費用は請求できるのでしょうか?)。

 一方,仮に代車が必要となったとしても代車を使用しなかった場合,修理工場から無料で代車を借りたり家族の自動車を使用するなどして代車料の支出をしなかった場合,そして,そもそも修理をしなかった場合などで代車料は認められるのでしょうか。

 代車の必要性があれば被害者はその分不便を強いられていることになり,その不便について代車料相当額の損害を受けたと評価することも理論的に可能ではあります。

 しかし,裁判実務では,このような仮定的な代車料は損害として認められておらず,実際に代車を使用して費用負担した場合にのみ代車料が認められるのが原則です。

 東京地判平成12年8月23日交通事故民事裁判例集33巻4号1312頁では,仮に代車が必要であるとしても,現実に代車を使用していないので代車料負担の損害は発生していないと判断されています。

 さらに,東京地判平成13年1月25日交通事故民事裁判例集34巻1号56頁では,仮定的代車料が認められない理由について,「代車料の支払がないまま修理が完了し、損害として現実化しないことが確定した場合には、当該車両の利用価値の侵害は、抽象的なものにとどまるのであって、損害賠償の対象にはならない」と詳細な理由が挙げられています。

 大阪地裁の基準においても,「レンタカー使用等により実際に代車を利用した場合」に代車使用料を損害として認めることが明記されています(大阪地裁における交通事故損害賠償の算定基準(第4版)74頁)。

東京地判平成12年8月23日交通事故民事裁判例集33巻4号1312頁


 二 代車料について

 次に、仮に代車が必要であるとしても、そもそも、被告は、現時点では現実に代車を使用しておらず、代車料負担の損害は発生していない。また、修理期間中は親族や知人などから貸与を受けて対応する可能性も考えられるのであって(現に、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件訴訟の第一回口頭弁論期日において、原告訴訟代理人に対し、知人から貸与を受けた車両を使用して出頭したと説明したことが認められる。もっとも、被告は、本人尋問において、これを否定するが、わずか三回の口頭弁論のうちの初回の際の出来事であるのに、覚えていないとか、ヤナセの車であるとかあいまいな供述をしており信用できない。)、代車料の発生が確実であると認めるにも足りない。
 したがって、ベンツを使用することの相当性を判断するまでもなく、いずれにしても、代車料は認められない。


東京地判平成13年1月25日交通事故民事裁判例集34巻1号56頁


 3 代車料(仮定的代車料)
 証拠によると、控訴人は、◯車の修理期間中に修理会社から代車の無償提供を受けて使用し、代車料の支払をしないまま修理が完了したことが認められる。車両の利用価値の侵害は、車両の損傷に引き続いて生じる言わば二次的な損害であるので、これが実際に代車料を支払う等の事情により現実化すれば相当な範囲で損害として認める余地もあるが、本件のように代車料の支払がないまま修理が完了し、損害として現実化しないことが確定した場合には、当該車両の利用価値の侵害は、抽象的なものにとどまるのであって、損害賠償の対象にはならないものというべきである。したがって、控訴人主張の代車料(仮定的代車料)は、本件事故による損害とは認められない。


 

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