申告所得を超える収入があるのですが、実際の収入をもとに休業損害や逸失利益を請求することはできるのでしょうか?

事業所得者の申告外所得

 事業所得者の基礎収入の算定においては,事故前年度の申告所得が参照されるのが原則です。

 裁判所は,申告所得を超える実収入額を証明できれば申告外所得を認める立場を取っていますが,申告外所得について厳格な立証が求められているため,なかなか認められていないのが実情です。

 裁判所が厳格な立証を求めている背景としては,都合の良いときには過少に申告し,都合が悪くなると過大に申告するようなダブルスタンダードを許さないという判断があるものと考えられます。

 申告外所得については,所得を裏付ける預貯金通帳,会計帳簿,伝票類,取引関係書類等から立証することになります。

 湯川浩昭裁判官の講演「損害賠償の算定について 1.事業者の基礎収入の認定」(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 平成18年下巻収録)によれば,自己矛盾の主張であることから申告外所得の認定は厳格に行われるべきであり,収入や経費等については原本等の信用性の高い証拠による合理的疑いを入れない程度の高度の立証を行う必要があるとされ,「会計帳簿等を証拠として提出するだけでは十分ではなく,その信用性を裏付ける伝票等の原資料を証拠として提出し,その信用性について具体的に主張・立証する必要がある場合が多い」と指摘されています。

事故後の確定申告や修正申告

 事故後に確定申告や修正申告を行われるケースもありますが,過大に所得を申告する動機が発生しているため,事故前の申告と比較して信用性が低いものとして扱われているように思います。

 事故後に確定申告や修正申告をした場合,確定申告書や修正申告書の控えだけでなく,申告所得を裏付ける証拠を提出しなければ,申告書ないし修正申告書記載の所得が基礎収入として認定されることはないと考えられます。

賃金センサスによる所得の認定

 立証不十分で申告所得を超える実収入額の認定まではできないとしても,生活実態等から事業所得者に相当の収入があると認められる場合であれば,賃金センサスの平均賃金額を参考に基礎収入が認定されるケースもあります。

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