介護保険給付は賠償金から差し引かれるのでしょうか?

介護保険給付と損益相殺

 事故による後遺症等の影響で介護が必要になり,介護保険給付を受ける場合がありますが,介護保険給付が損益相殺の対象となるかが問題となります。

 介護保険法21条(損害賠償請求権)の1項が,「市町村は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。」と規定していることから,既払いの介護保険給付については市町村が代位して請求権を取得することになります。したがって,既払いの介護保険給付が損益相殺の対象となり,賠償金から差し引かれることは争いがありません。

 一方,将来分については,現行の介護保険制度がそのまま維持される保障はなく,給付が確実に受けられるとは言い難いとして,損益相殺が否定された裁判例があります(東京地判平成15年8月28日交通事故民事裁判例集36巻4号1091頁)。

 裁判例の傾向についてですが,大阪地裁における損害賠償の算定基準(第4版)105頁では,「将来受給できる介護保険給付は控除を否定する裁判例が多い」と指摘されています。

東京地判平成15年8月28日交通事故民事裁判例集36巻4号1091頁


(オ) なお、被告らは、原告春子が平成五二年に六五歳となった以降は介護保険制度の適用があるから、同年以降は自己負担額以上の介護費を認めるべきではなく、また、介護費の算定に当たっては公的介助の存在を斟酌すべきであると主張するが、平成五二年以降に現行の介護保険制度がそのまま維持される保障はないことからすれば(平成一七年に介護保険制度の見直しないし再検討が予定されていることは、被告らが自ら主張するところである。)、給付が確実に受けられるとは到底いい難く、損害額から控除することはもとより、介護費算定の一事情として斟酌することも相当ではないから、被告らの主張は理由がない。


 

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