実家に帰省したときに祖父が運転する車に乗って事故にあったのですが、相手の保険会社に祖父に過失があるから被害者側の過失として減額すると言われました。保険会社の言い分は正当なのでしょうか?

被害者側の過失とは?

 本件のように,事故にあった本人は単に同乗していただけであるのに,保険会社から運転者に過失があるので減額すると主張されることがあります。

 被害者と一定の関係にある第三者の過失を被害者の過失として考慮する場合を,被害者側の過失と呼んでいます。

 最一小判昭和34年11月26日民集13巻12号1573頁が民法722条の過失に被害者側の過失を含むことを示したのち,被害者とどのような関係にある第三者の過失が考慮されるかの基準については,最一小判昭和42年6月27日民集21巻6号1507頁で明らかにされました。。

 最一小判昭和42年6月27日民集21巻6号1507頁は,保育園の保母に引率された4歳の幼児が,保母の不注意により道路に飛び出してダンプカーにひかれた事案ですが,保母の過失を幼児の過失(被害者側の過失)として考慮できるかどうかが争点となりました。

 本判決では,被害者側の過失とは,「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいう」とし,保母のような被害者と一体をなすとみられない者の過失はこれに含まれないと判断されています。

最一小判昭和42年6月27日民集21巻6号1507頁


 民法七二二条二項に定める被害者の過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきではあるが、本件のように被害者本人が幼児である場合において、右にいう被害者側の過失とは、例えば被害者に対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと解するを相当とし、所論のように両親より幼児の監護を委託された者の被用者のような被害者と一体をなすとみられない者の過失はこれに含まれないものと解すべきである。けだし、同条項が損害賠償の額を定めるにあたつて被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものである以上、被害者と一体をなすとみられない者の過失を斟酌することは、第三者の過失によつて生じた損害を被害者の負担に帰せしめ、加害者の負担を免ずることとなり、却つて公平の理念に反する結果となるからである。


「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係」とは?

「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係」とは,経済的に一体の関係,いいかえると「財布が一つ」の関係を指すと考えられています。

 判例で取り上げられた事例を整理すると以下のようになります。

肯定例
  • 監督義務者の親と未成年の子(最一小判昭和34年11月26日民集13巻12号1573頁)
  • 夫婦(最一小判昭和51年3月25日民集30巻2号160頁)
  • 内縁の夫婦(最三小判平成19年4月24日集民224号261頁)
否定例
  • 保育園の保母と園児(最一小判昭和42年6月27日民集21巻6号1507頁)
  • 会社の同僚(最三小判昭和56年2月17日集民132号149頁)
  • 婚約していたが,同居はしていない恋人同士(最三小判平成9年9月9日集民185号217頁)

 

 本件で被害者側の過失が考慮されるかどうかですが,判例は,「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係」にあるかどうかを問題としており,親族関係かどうかでは判断していません。

 本件は,同居していない孫が実家に帰省した際に祖父の運転する車に乗っていて事故にあったものです。

 孫と祖父とは生活基盤も異なり,とても財布が一つとは言えません。

 したがって,祖父とは「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係」になく,祖父の運転の過失を考慮することはできないものと考えられます。

その他のケース(被害者の被用者の過失)

 「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係」とは別の観点で,(実質的な)被用者の過失を考慮した名古屋高判平成21年2月12日交通事故民事裁判例集42巻1号18頁があります。

 第一審の名古屋地裁は,身分上・生活関係上の一体関係までは認められないとして,実質的な被用者の過失を考慮しませんでしたが,控訴審の名古屋高裁で判断が覆りました。

 最高裁に上告及び上告受理申立てがされましたが,却下・不受理となり,名古屋高裁判決が確定しています。

名古屋高判平成21年2月12日交通事故民事裁判例集42巻1号18頁


2 過失相殺について

 そして,前記1(1),(2)で認定説示したとおり,本件事故当時の◯の運転は,控訴人の指揮監督の下に控訴人の業務の執行につき行われたというべきであるから,被控訴人△との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては,公平の見地に照らし,控訴人の実質的被用者であるAの過失を控訴人側の過失として考慮するのが相当である。
 控訴人は,被控訴人△と◯とが共同不法行為者であり,過失割合は内部求償問題であって,控訴人には関係がない旨を主張するが,上記のとおりの控訴人と◯との指揮監督関係,力関係等からすれば,◯の運転行為は,控訴人との一体的な関係の運転ということができ,◯の独立した単独行為ということはできない。したがって,控訴人の上記の主張は採用できない(なお,最高裁平成20年7月4日判決・判例タイムズ1279号106頁参照)。


 

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