ブレーキが無い競技用自転車に乗っていた事情は、過失割合の判断においてどの程度考慮されるのでしょうか?

自転車の制動装置不良に関する法規制

 いわゆるピストやフィクシーと呼ばれる競技用自転車では,ブレーキ装置を備えていなかったり,前輪又は後輪のみにブレーキ装置を備えているものがあります。

 道路交通法63条の9第1項は「自転車の運転者は、内閣府令で定める基準に適合する制動装置を備えていないため交通の危険を生じさせるおそれがある自転車を運転してはならない。」と定め,内閣府令で定める基準に適合する制動装置の設置を義務付けています。

 道路交通法63条の9第1項の規定を受けた道路交通法施行規則9条の3には,「前車輪及び後車輪を制動すること(1号)」「乾燥した平たんな舗装路面において、制動初速度が十キロメートル毎時のとき、制動装置の操作を開始した場所から三メートル以内の距離で円滑に自転車を停止させる性能を有すること(2号)」との基準が規定されています。

 以上の基準によれば,ブレーキ装置を備えていなかったり,前輪又は後輪のみにブレーキ装置を備えているような競技用自転車は道路交通法63条の9第1項違反に該当することになります。

 また,ブレーキが壊れたままになっているような整備不良の自転車も同法違反になります。

 道路交通法63条の9第1項違反については,5万円以下の罰金が法定刑として定められています(道路交通法120条1項8号の2)。

自転車の制動装置不良の事情の考慮

 過失割合の判断については,実務上,別冊判例タイムズ「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(以下,「別冊判タ」といいます)に記載された基準が参照されています。

 検討の流れとしては,まずは,問題となっている交通事故が別冊判タに掲載された基準のどの類型に近いかを調べます。

 別冊判タに記載のある事故状況である場合,当該基準の基本割合をもとに,修正要素の有無を検討することになります。認定基準にない事故類型の場合,掲載されている近い類型の基準の過失割合を参考に修正を加えるという考え方が取られています。近い類型の基準すら掲載されていない非典型事故の場合には,類似の事故態様の裁判例における判断を参考にしながら過失割合を検討することになります。

 修正要素には,別冊判タの各基準毎に明記されているものもあれば(例えば,信号機により交通整理が行われていない交差点において,対抗右折車と直進車が衝突した類型の基準114では,対抗右折車の早回り右折や大回り右折の事情が直進車の-5%の修正要素として明記されています),問題となっている交通事故の状況から,著しい過失や重過失に該当するかを個別に検討する必要があるものもあります。

 そして,別冊判タ全訂第5版59頁,134頁や388頁には,自転車の重過失の例として,いわゆる「ピスト」等の制動装置不良が挙げられており,自転車の重過失の修正要素として考慮することになります。

 自転車の重過失がどの程度の影響するかについては,基準により重過失の評価に5%~20%の幅があるため,各基準に問題となっている交通事故を当てはめた後に判断することになります。

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