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事故で自動車を修理に出したところ、修理代のほうが車両価格より高額になりました。このような場合でも修理代を請求できますか?

2018.05.13

経済的全損とは?

 交通事故により,車両が物理的に修理不可能なほどひどく壊れてしまった場合のことを「物理的全損」といいます。

 これに対して,修理することはできるけれども,修理費用が,交通事故前の被害車両の価格及び買替諸費用の合計額以上にかかってしまう場合のことを「経済的全損」といいます。

 修理費が事故当時の車両価格及び買替諸費用の合計額を上回るときは,「交通事故前の被害車両の価格及び買替諸費用が賠償されれば,被害者は被害車両と同種同等の車両を取得することができ,その結果,被害者は不法行為がなかったときの状態に戻ることができる」として,修理費を請求することはできず,交通事故前の被害車両の価格及び買替諸費用の合計額を請求しうるにとどまります(東京地判平成28年6月17日交通事故民事裁判例集49巻3号750頁)。被害車両が経済的全損であることについては,適正修理費用の賠償を免れようとする加害者に立証責任があります(前掲東京地裁平成28年判決)

 経済的全損となった場合,具体的には事故当時の車両価格及び買替諸費用の合計額から処分価格を控除した「買替差額費相当額」を請求することになります(東京高判昭和57年6月17日判例時報1051号95頁)。

東京地判平成28年6月17日交通事故民事裁判例集49巻3号750頁


(1) 不法行為に基づく損害賠償制度の目的は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることにある(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)。この目的からすると,交通事故によって車両が損傷し修理を要する状態になった場合,加害者は,当該車両(以下「被害車両」という。)の所有者又は使用者(以下「被害者」という。)に対し,原則として,適正修理費用を賠償する責任を負うと解するのが相当である。なぜなら,被害者を不法行為がなかったときの状態に回復させるためには,適正修理費用の賠償が必要だからである。
 もっとも,適正修理費用が交通事故前の被害車両の価格及び被害車両と同種同等の車両を市場で取得するのに要する費用(以下この費用を「買替諸費用」という。)の合計額を上回るときは,いわゆる経済的全損として,加害者は,被害者に対し,交通事故前の被害車両の価格及び買替諸費用の合計額を賠償すれば足りると解するのが相当である。なぜなら,交通事故前の被害車両の価格及び買替諸費用が賠償されれば,被害者は被害車両と同種同等の車両を取得することができ,その結果,被害者は不法行為がなかったときの状態に戻ることができるからである。
 なお,被害車両が経済的全損になったこと,すなわち,適正修理費用が交通事故前の被害車両の価格及び買替諸費用の合計額を上回ることは,適正修理費用の賠償を免れようとする加害者において立証する必要があると解するのが相当である。


東京高判昭和57年6月17日判例時報1051号95頁


 交通事故により中古車両を破損された場合において,当該車両の修理費相当額が破損前の当該車両と同種同等の車両を取得するのに必要な代金額の基準となる客観的交換価格(以下単に交換価格という。)を著しく超えるいわゆる全損にあたるときは,特段の事情のない限り,被害者は,交換価格を超える修理費相当額をもつて損害であるとしてその賠償を請求することは許されず,交換価格からスクラップ代金を控除した残額の賠償で足るものというべきである。

 蓋し,不法行為による損害賠償の制度は不法行為がなかつたならば維持しえたであろう利益状態を回復することを目的するものであるところ,中古車両を毀損された所有者は,通常破損箇所の修復をすることにより右利益状態の回復をなしうるのであるから,修理費がこの場合の損害額であるとみるべきであるが,先にも述ベたとおり自動車は時の経過に伴い修理費及び整備費がかさむものであり,まして事故により毀損された場合の修理費は,毀損の程度,態容の如何により経常の修理,整備費をはるかに上廻り,該費用額が前記交換価格を著しく超える結果となることもありうるのであり,このような場合には,被害者は,より低廉な価格で代物を取得することによつて前記利益状態を回復しうるのであるから,該交換価格が損害額となるものというべく,交換価格より高額の修理費を要する場合にもなお修理を希望する被害者は,修理費のうち交換価格を超える部分については自ら負担すべきものとするのが公平の観念に合致するからである。本件において,(イ)被害車両と同種同等の自動車を中古車市場において取得することが至難であり,あるいは,(ロ)被控訴人が被害車両の代物を取得するに足る価格相当額を超える高額の修理費を投じても被害車両を修理し,これを引き続き使用したいと希望することを社会観念上是認するに足る相当の事由が存するなどの特段の事情は見当らない。


買替差額費相当額の請求

 買替差額相当額は,物理的又は経済的に修理不能となった場合や,フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じたことが客観的に認められ,買い替えをすることが社会通念上相当と認められるような場合に請求することができ,交通事故直前の車両の時価額に買替諸費用を含んだ金額から,事故車両の処分価格(下取り価格やスクラップ代)を差し引いて算出されます。
 従って,交通事故直前の車両の時価を超える修理費を支出した場合でも,原則として時価額及び買換諸費用の合計額を超える修理費の部分については,損害として認められないことになります。

 この場合の車両の時価額については,「同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額」によるとされています(最二小判昭和49年4月15日民集28巻3号385頁)。

 実務では,「レッドブック」と呼ばれる「オートガイド自動車価格月報」や,「イエローブック」と呼ばれる「中古車価格ガイドブック」を参考に中古車市場での取引価格が算定されるのが一般的ですが,中古車の専門雑誌やインターネット上の販売価格情報などが参考にされる場合もあります。

買い替えをせずに,修理して使用し続ける場合

 経済的全損となった事故車両の所有者が,買い替えをせずに車両を修理して使用し続ける場合,損害額から現実には受け取っていない処分価格を控除すべきか否かが問題となります。

 前掲東京高裁昭和57年判決の事例では,所有者が車両を修理して使用を続けていますが,「交換価格からスクラップ代金を控除した残額の賠償で足る」と判断されています。

 近年の裁判例である前掲東京地裁平成28年判決では,修理せずに売却した場合は売却代金を控除して算定するのが相当であるとしつつ,一方で,修理して使用した場合には,経済的全損になっても車両を修理せずに売却する義務はなく,取得可能な売却代金を取得していない以上,これを利益に当たるとして損害額が現実に補てんされたと解することはできないとして,取得可能な売却代金は損害額から控除されないと判断されています(ただし,傍論での判示です)。

東京地判平成28年6月17日交通事故民事裁判例集49巻3号750頁


 2 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく被告の主張は理由がないが,仮に本件事故によって◯車が経済的全損になっていた場合,◯の損害額から◯が◯車を修理せずに売却していれば取得できた代金(取得可能な売却代金)を控除すべきかについて当裁判所の見解を付言しておく。
 まず,◯が◯車を修理せずに売却した場合,◯の損害額は◯車の売却代金を控除して算定するのが相当である。なぜなら,この場合,◯は◯車の売却代金を実際に取得するから,本件事故前の◯車の価格及び買替諸費用の合計額から◯が取得した売却代金の差額が賠償されれば,◯は不法行為がなかったときの状態に戻ることができるからである(前記最判平成5年3月24日は,被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要があると述べているが,同最判の考え方は上記に示した考え方と同趣旨と解される。)。
 問題は,◯が◯車を修理して使用した場合に,◯の損害額から取得可能な売却代金を控除すべきかである。
 この点について被告は,これを肯定するのが公平と主張する。
 しかし,◯は,◯車の使用者として,◯車を修理して使用することも選択できる以上,◯が◯車を売却せずに修理して使用したことを理由に,◯の損害額から△への売却代金(取得可能な売却代金)を控除することはできない。また,被告は◯に本件事故前の◯車の価格を支払っていないのであるから,そもそも民法422条類推適用の余地はなく,被告が△へ◯車を売却できなくなったことを理由に,◯の損害額から△への売却代金(取得可能な売却代金)を控除することもできない。
 結局,被告の主張は,◯車が経済的全損になった以上,◯は◯車を修理せずに売却する義務があることを前提にした主張と解するほかはないところ,◯にそのような義務はないのであるから,被告の主張は失当である。
 なお,被告は,昭和49年最判が被告の主張を前提にしていると主張する。しかし,昭和49年最判は,被害車両の所有者が加害者に対し事故当時における被害車両の価格と売却代金との差額を請求した事案において,同請求が認められるための要件について判示したものであり,被害車両の使用者が被害車両を修理して使用した場合における使用者の損害額について何ら判示していないから,昭和49年最判が被告の主張を前提にしていると解することはできない。
 また,被告の主張は,取得可能な売却代金は前記最判平成5年3月24日が述べる被害者の利益に当たるから,公平の見地から損益相殺的な調整を図る必要があるとの主張とも解しうる。しかし,◯は取得可能な売却代金を取得していない以上,これを利益に当たるとして◯の損害額が現実に補てんされたと解することはできないというべきである。よって,公平の見地から損益相殺的な調整を図る必要があるとはいえず,被告の主張は失当である。


 

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