年少者が事故で死亡した場合、就労可能年齢までに要したであろう養育費は賠償金から差し引かれるのでしょうか?

養育費と損益相殺

 年少者が死亡した場合,本来ならば支出したであろう養育費が不要になるため,扶養義務者が相続した場合に,損益相殺によって養育費の額が控除されるかどうかが問題となります。

 この点について,最三小判昭和39年6月24日民集18巻5号874頁は,「損益相殺により差引かれるべき利得は、被害者本人に生じたものでなければならない」として,損益相殺を否定しました。

 前記昭和39年判例が出た後も,下級審では養育費を控除する裁判例が少なからずありました(大阪地判昭44・4・28交通民集3巻2号611頁,東京高判昭49・2・25判時737号44頁,東京地判昭44・2・24下民集20巻1~2号76頁など)。

 これに対し,最二小判昭和53年10月20日民集32巻7号1500頁は,「養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がな」いとして,原審が行った養育費の損益相殺を否定し,養育費を控除しない立場を明確にしました。

 したがって,就労可能年齢までに要したであろう養育費は賠償金から控除されないことになります。

最三小判昭和39年6月24日民集18巻5号874頁


(E) 上告人らは、また、論旨三において、本件損害賠償請求権を相続した被上告人らは、他面において、被害者らの死亡により、その扶養義務者として当然に支出すべかりし二〇才までの扶養費の支出を免れて利得をしているから、損益相殺の理により、賠償額から右扶養費の額を控除すべきであると主張するが、損益相殺により差引かれるべき利得は、被害者本人に生じたものでなければならないと解されるところ、本件賠償請求権は被害者ら本人について発生したものであり、所論のごとき利得は被害者本人に生じたものでないことが明らかであるから、本件賠償額からこれを控除すべきいわれはない。所論は、採用に価しない。


最二小判昭和53年10月20日民集32巻7号1500頁


交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、右養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく、したがつて、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当である(当裁判所昭和三六年(オ)第四一三号同三九年六月二四日第三小法廷判決・民集一八巻五号八七四頁参照)。

 したがつて、交通事故により死亡した亡◯(当時満一〇歳)の両親である上告人らの被上告人らに対する損害賠償請求について、亡◯の財産上の損害額の算定にあたり、その将来得べかりし収入額から養育費に相当する七七万五五八四円を控除した原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならず、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。それゆえ、上告人らの本訴請求中上告人らが被上告人ら各自に対し右七七万五五八四円の二分一にあたる各三八万七七九二円及びこれに対する昭和四六年七月三一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を棄却した部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消したうえ、上告人らの右請求を認容すべきである。


 

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